インバウンド統計を地図上に可視化してみた(宿泊旅行統計・東アジア編)

f:id:toyojapan1:20180104222522p:plain

  • 【今回の記事を書いた背景】

2017年に日本を訪れた外国人の数は2800万人を突破する見込みである。日本政府は2020年までに訪日外国人4000万人を誘客し、その消費額を8兆円まで引き上げる目標を掲げている。観光業は少子高齢化の進む日本において貴重な成長産業と位置付けられ、近年とみに叫ばれている「地方創生」の切り札としてもにわかに期待されるようになった。

ところが実態としては、京都をはじめ観光客が集中する地区において「観光公害」と呼ばれるような弊害も生んでいる一方で、ほとんど外国人の訪問がなくインバウンドの恩恵を受けられていない地方も数多く存在している。今後更なる誘客を図るには、各国における外国人の需要を正しく理解し、その受け入れを地方間でいかに平準化できるかが課題である。

そのためにはまず現状把握として、日本という国単位ではなくできるだけ細かく地域単位でインバウンドの実態を把握することが必要である。新聞報道などでよく引用される日本政府観光局(JNTO)の訪日外客統計は、国籍別・月別の訪日客数を公表しているが、日本に来た外国人がどのような地域を訪れているのかに関する客観的なデータは少ない。また、データがあっても分析が十分になされておらず、活用されているとは言えないのが実態である。

そこで、今回の記事では数少ない地域別インバウンド統計の一つである観光庁の「宿泊旅行統計(2016年)」を地図上に可視化し、具体的に以下の問題に対する答えを見つけることを目指す。

  • 外国人観光客の訪問地として最も多いのは、観光客の国籍に関わらず東京・大阪であるだろううが、それ以外の地域について訪問地は国籍毎に特徴があるのだろうか。例えばスペイン人が好んで訪れる地域とドイツ人が好んで訪れる地域、台湾人が好んで訪れる地域と香港人が好んで訪れる地域は違うのだろうか。またその違いはデータによって可視化できるのだろうか?
  • 【分析方法】

外国人宿泊者数(全体)に占める各国籍宿泊者数の割合を47都道府県毎に計算。QGISを用いて数値毎に色分けを行う。割合の低い県(全外国人宿泊者に対し、その国の宿泊者の割合が相対的に低い県)については青色、割合の高い県(全外国人宿泊者に対し、その国の宿泊者の割合が相対的に高い県)については赤色をつける。

赤色がつけられた都道府県を見ることで、例えば中国人なら中国人、アメリカ人ならアメリカ人が他国人と比べて相対的にどの地域を多く訪れているのか、ということを理解することができるため、各国毎の観光客の特性をつかむことができる。

  • 【分析結果】

  • 中国人

f:id:toyojapan1:20180104223025p:plain

全外国人宿泊者に占める中国人宿泊者の割合は、都道府県毎に約4.2%~69.0%まで開きがあった。その中で特に中国人宿泊者の割合が高かった県はゴールデンルート(東京~富士山~大阪を結ぶルート)に集中していた。特に割合が高かったのは静岡県であるが、上海・武漢杭州に直行便を持つ富士山静岡空港の強みが生かされていると言えるだろう。

国際線 運航状況|富士山静岡空港

また、奈良県の割合が高いのも印象的だが、唐の時代からの文化遺産を保存してきた奈良が中国人にとって魅力的に映るということなのかもしれない。

  • 台湾人

f:id:toyojapan1:20180104222522p:plain

全外国人宿泊者に占める台湾人宿泊者の割合は、都道府県毎に約6.6%~56.0%まで開きがあった。その中で特に岩手県をはじめとする東北地方における割合が高かった。東北地方における外国人宿泊者数は母数が少ないので、台湾人の割合が高いとはいえ絶対数にすれば決して多いわけではなく、まだまだ伸びしろがある。下記のJR東日本による台湾人向け東北プロモーションキャンペーンは、まさにこれから台湾人を更に誘客する上で効果的な施策であると考えらえる。

下一站、東北。用全日本最美的雪景,來犒賞自己吧!

高知県をはじめとする四国や、北陸地方における台湾人宿泊者割合も比較的高くなっている。他国人と比べてリピーターの数が圧倒的に多い台湾人は、メジャーなルートであるゴールデンルートを外れて未だマイナーな地方を旅行先として選ぶ人も多いということがデータを通じて見て取れる。

f:id:toyojapan1:20180104224715p:plain

全外国人宿泊者に占める香港人宿泊者の割合は、都道府県毎に約1.2%~39.4%まで開きがあった。繁体字中国語を使う人達として台湾とまとめられがちであるが、宿泊地の特性は東日本の割合が高かった台湾に対し、香港人宿泊者の割合は九州四国をはじめとする西日本で高い。

南九州における割合が高いのは、2015年に香港エクスプレスが就航した宮崎や、香港エクスプレス・香港航空が乗り入れる鹿児島に訪れる香港人が増えていることを示しているのであろう。また、徳島県の割合が突出して高いが、大歩危・祖谷地域は早くから香港市場をターゲットに誘客に力を入れてきており、その成果が数字に表れていると言える。

徳島県の秘境「三好市」の外国人観光客数がなんと約5倍になっとんじょ! | I LOVE TOKUSHIMA

2016年7月には高松空港に香港との定期便が就航しており、更なる誘客が期待されているほか、徳島にも直行便の就航が予定されている。

日本政府観光局(JNTO)のRail&Driveキャンペーンに見られるように、成熟市場である香港は鉄道やレンタカーを使って自由に旅行する個人客が多くなっており、近年は中部地方を対象にプロモーションも行われている。

  • 韓国人

f:id:toyojapan1:20180104231246p:plain

 

全外国人宿泊者に占める韓国人宿泊者の割合は、都道府県毎に約0.8%~53.4%まで開きがあった。地理的近接性を背景として、九州地方+山口県における割合が非常に高くなっているのが印象的である。また、境港~東海への定期航路や、米子~ソウル航空便などが就航する鳥取県において韓国人の割合が高い。北東アジアにおける「環日本海経済圏」というのは日本海側でよく掲げられるスローガンであるが、こういったデータを見ると納得させられるところも多い。関西地方からの山陰への周遊ルートが確立されると、島根県など今は韓国人の割合がそれほど高くない県でも更に誘客が図れるのではないだろうか。

http://www3.boj.or.jp/matsue/kouhyoushiryou/tokubetsu/toku1612.pdf

今回は東アジア中国・台湾・香港・韓国の4つの国・地域について宿泊者数の割合を可視化し、考察を加えた。

次回以降、東南アジア、欧米豪についてもまとめ、考察を行うつもりである。

  • 【備考】

・宿泊旅行統計は従業員10名以上の宿泊施設を対象に調査を行っているため、近年流行りの民泊や小規模な民宿における宿泊客の数が反映されない。従って、統計内の数字は完全に実態を反映しているとは言い切れない点も残っている。

(※)なお、各国ごとの考察については私の知る限りの情報しか反映できていません。数字の違いにはもっといろいろな背景があると考えており、コメント等で補足を行っていただくのは大歓迎です。