休学中の記録

残雪の蔵王熊野岳と温泉の旅

嫁の姉カップルが仙台行の格安航空券を手に入れたということを聞いたので、合流して一緒に遊ぶことになった。仙台の青葉祭りの時期に合わせてということだったけれど、せっかく5月の良い時期に東北に来るので祭りはスキップしてもらい、レンタカーで残雪と新緑の山々と温泉を楽しんだ。手軽にピークを踏むことができる百名山蔵王熊野岳にも登頂できたので個人的にも満足な旅になった。

f:id:toyojapan1:20190523221225j:plain

5月16日

金曜日の17時にバスタ新宿発のWiller Expressに乗り、まずは仙台へと向かう。夜行ではなく夕方の時間にバスに乗るのは少し新鮮だ。5月は日が長いのでまだ少し日光のまぶしさが残る中、清々しい青空の下出発するのは気分が良い。

一足早く仙台に着いた義姉カップルは牛タンを食べにいくということだったので、「一隆本店」という牛タン屋を紹介しておく。仙台によく出張に行く同期に教えてもらったお店なのだが、ネット上のあらゆる情報よりも信頼できる1人の人がくれる情報の方が頼りになることをしみじみ実感する。

今回泊まったのはホテル法華クラブ仙台で、4人部屋で1万円なのでとてもお得。部屋は広々としていて、幸い僕が歯ぎしりする以外寝相の悪い人も鼾がうるさい人もいないので、快適な夜を過ごすことができた。

5月17日

本当は朝の街を散歩してからベーカリーで朝食を、と思っていたのだが、ホテルのエレベーターに貼られていた美味しそうな朝食の写真の抗力に勝てず、結局ホテルで朝食をとることにした。

実際ホテルの朝食はとてもおいしくて、おぼろ豆腐、枝豆豆腐、納豆、山芋と横山味噌の味噌汁でまずご飯を一杯食べ、白石温麺に油麩卵とじと三角油揚げを合わせ、デザートにずんだプリンを食べ、優雅に珈琲を飲んでから出発した。

仙台を出発するとすぐに穏やかな山並みと田園風景が広がる。新緑の中にポツポツと紫色の山藤が咲いているのが印象的だ。

途中ダム湖で休憩してちょっとした直売所のようなところに入ると、セリがたくさん売っていた。仙台と言えば牛タンも良いけど実はセリ鍋がおいしいんだ、とまた別の職場の元同僚が言っていたのを思い出す。秋田のきりたんぽ鍋もセリが入るとおいしいし、東北と言えばセリがおいしい。1時間ほど車を運転し、蔵王宮城県側、遠刈田温泉にたどり着く。

f:id:toyojapan1:20190521000337j:plain

遠刈田温泉蕎麦屋「匠庵」で昼食をとった。山菜の天ぷらがもう終わっていたのは残念だが、そばの味は確かで、漬物もおいしかった。誰かが言っていたが漬物がおいしい蕎麦屋に間違いはない。

f:id:toyojapan1:20190521000357j:plain

共同浴場の「神の湯」。建物内を少し覗いてみようと入口から中に入ると、木の香りがふわっと広がった。

f:id:toyojapan1:20190521000433j:plain

こけしラムネを飲みながら足湯に入る至福の時間を過ごし、ゆっくりしてからドライブ再開。御釜を目指して蔵王エコーラインを走る。

f:id:toyojapan1:20190523223610j:plain

駒草平の展望台で小休止。雪解け水があちこちで滝を作っていた。

f:id:toyojapan1:20190521000850j:plain

蔵王山レストハウスから歩いて2分の刈田岳山頂付近から眺めた御釜

f:id:toyojapan1:20190523231810j:plain

山頂には神社がある。コマクサのおしゃれなデザインの朱印帳はなかなか魅力的だ。高山植物がデザインされた朱印帳はそうそう見ることができないので山好きな人にはお勧めだ。

f:id:toyojapan1:20190521000830j:plain

刈田岳から最高峰の熊野岳方面に歩くと景色が変わってくる。ほとんどの人はレストハウスから少し歩いて御釜が見れれば満足して帰っていくのだが、それではもったいない。少し足を延ばすだけで御釜を外輪山が取り囲むダイナミックな火山地形を体感することができる。

登山道は外輪山上に設けられているので基本的にはフラットであるし、万が一視界が悪くなった場合にも数メートル間隔でポールが立てられているので道に迷う心配はない。僕たちもスニーカーを履きながら、散歩気分で歩いた。

f:id:toyojapan1:20190521000239j:plain

小一時間も歩くと熊野岳山頂に着く。日本で最も簡単に踏める百名山ピークの一つだろう。三角点と記念撮影をして神社を参拝するが、強風が吹きすさぶので長居はできない。避難小屋で暖を取ってから帰路についた。

f:id:toyojapan1:20190523233004j:plain

一ヶ所残雪を突っ切るところがあるが、踏み跡は固く、傾斜も緩やかなのでスニーカーを履いている自分達でも全く問題なかった。

レストハウスに戻って今度は山形県側の蔵王温泉に下りる。静かな山と温泉の旅ができるのは東北の山の最大の魅力だ。

f:id:toyojapan1:20190521002109j:plain

夕食は温泉街名物のジンギスカン。一日の行程が無事終わったことに祝杯をあげる。

f:id:toyojapan1:20190520234406j:plain

蔵王温泉では5月~6月の週末、「蔵王酢川温泉神社戌の刻詣」というイベントを行っている。戌の刻、つまり午後8時に出発し、温泉街のメインストリートであり酢川温泉神社の参道でもある「高湯通り」を歩く。地元ガイドの人から蔵王温泉街の歴史や泉質などの解説を聞きつつ、最後には酢川温泉神社に参拝しお神酒をいただき、天狗さんに願いをかなえてもらう、イベントだ。

f:id:toyojapan1:20190521001640j:plain

蔵王天狗との記念撮影。

以下はその時聞いた話の備忘録。

蔵王温泉は戦前までは高湯温泉と呼ばれていた。1950年に毎日新聞社主催の「新日本観光地百選」の山岳部門で蔵王連峰が1位に選ばれたことから、その山麓の「高湯温泉」が「蔵王温泉」に改名されたものである。

蔵王には40以上の源泉がある。源泉温度は50度程度で自噴しており、温泉地としては理想的な環境にある。例えば川原湯共同浴場は源泉の真上に建っており、温泉が湯舟の足下から湧き出ているという非常に特殊な温泉である。*1

蔵王の温泉はPH値が1.4~1.8程度の強酸性で、これより酸性度の高い温泉は秋田の玉川温泉くらいだという。「酢川神社」という神社の名前自体が蔵王温泉の強酸性を物語っている。

蔵王の温泉の中にも白濁度が強いものと透明度が高いものがある。例えば川原湯共同浴場はほぼ透明だが、上湯共同浴場は多少濁った湯になっている。また、今回宿泊した吉田屋旅館の湯はほぼミルク色の温泉であった。これらの違いは温泉が空気に触れる時間によるものなのだそうだ。温泉が噴出してきたばかりの際は透明なのだが、やがて中の硫黄成分が空気に触れると共に酸化し、それがいわゆる「湯の花」となって白濁を生む。川原湯は足下に自噴している温泉なので透明度が高く、それに比べて上湯共同浴場や吉田屋旅館の温泉は空気に触れる時間が長かったということなのだろう。

f:id:toyojapan1:20190523232344j:plain

川原湯共同浴場。足下から湧き出る源泉に側から山水を加水して適温にしている。

f:id:toyojapan1:20190520234739j:plain

上湯共同浴場の白濁湯。

5月18日

f:id:toyojapan1:20190520233913j:plain

朝起きると清々しい新緑に包まれる。梅雨入り前のこの季節は空気が澄んでいてとても気持ちが良い。

f:id:toyojapan1:20190521001115j:plain

 蔵王温泉に別れを告げ、山寺・鳴子温泉に向けて出発した。

Information

今回は「吉田屋旅館」に宿泊した。

蔵王温泉 吉田屋旅館

上湯共同浴場、酢川温泉神社の目の前で立地はとても良い。宿泊者は共同浴場の無料券がもらえるほか、蔵王温泉大露天風呂の割引券がもらえるので、お得感がある。部屋も温泉も朝食も特別良いわけでもないが不満はなかった。朝食はもう少しボリュームが欲しかったかな。

Kokeshi, from Tohoku With Love

Kokeshi, from Tohoku With Love

 

 ロビーにはこけしを紹介する英語の本があって、翌日鳴子温泉に行くにあたって予習していくことができた。また、蔵王温泉(高湯温泉)の復刻版のガイドブックがあって、明治時代の高湯温泉の盛況ぶりを窺い知ることができて面白かった。

https://www.yamacomi.com/2074.html

また、蔵王温泉には山形酒のミュージアムがあって、山形各地の蔵元のお酒が手に入る。お気に入りの一本を見つけて宿に持ち帰り、風呂上がりに飲むのもまた良い。

http://www.zao-sake.com/

*1:噴出時の温度が適温に近いため初めてこのようなことが可能で、例えば草津温泉の源泉は90度ほどの高温であるそうなので同じことをやると火傷してしまうだろう。