休学中の記録

庭園美術館と国立科学博物館附属自然教育園

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ある日の夕方、通院の帰り道に庭園美術館を訪れた。庭園美術館には通訳案内士資格を持っていると無料で入館できる。こうした施設は全国にたくさんあって、私はよくその恩恵にあずかっている。

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通訳案内士は国家資格であるものの、2018年1月の法改正で資格なしでの案内業務が可能になった。つまり従来の業務独占が廃止され、資格が無くても外国人を案内できるようになった。そんな中、無料入場できる施設の存在は、通訳案内士にとっての数少ないメリットと言えるかもしれない。

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庭園美術館を含めた目黒一帯の上空では、羽田空港を離着陸する飛行機が大きな翼を広げて低空飛行する様子が見られる。入館前、少し疲れを覚えたので美術館前の芝生に寝転がった。秋を感じさせる高い空には飛行機が飛び交い、真っすぐ高いヒマラヤスギの緑が空を縁取っていた。

少し休んでから館内に入って、アール・デコ様式の建築を足早に見学した。

庭園美術館に続いて、今度は隣接する国立科学博物館附属自然教育園に入った。自然教育園は入園料が必要だが、都内でも有数の広さを誇る緑地の中で様々な動植物が見られる。

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ミソハギ Lythrum anceps

お盆の際、この花に水を含ませて仏前の供え物にしずくを落とし、禊をする風習があったという。

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ノシラン Ophiopogon jaburan

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ヤブミョウガ Pollia japonica

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ベニシダ Dryopteris erythrosora

若葉が紅色を帯び、葉裏の胞子嚢も紅色であることから「ベニシダ」の名前があるという。

短い時間しか滞在できなかったが、良いリフレッシュになった。

参考

東京都で通訳案内士証の提示で無料入場できる施設一覧。

https://tokyoguide.info/docs/waribiki.pdf

伊勢志摩の海と自然

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朝は目の前で太陽が昇り、夜は月が昇る。早朝や夜の時間帯は雑音が少ない。「ザザーン、ザザーン」という静かな波の音だけが耳に心地よく響く。

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昼になるとシュノーケルを持って海に出た。猛暑の中で気温は高いが、海水温は意外と低い。海に入ると体温が一気にサーっと引いていくのを感じるが、やがて体が水温に慣れてくる。沖の水が入り込む場所は水温が低くて長居できないが、その分透明度が高くて魚影が濃い。海中では大小の魚が思い思いに泳いでおり、時折鯛ほどの大きさの魚が目の前を横切ることもある。

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海辺には海女さんが使う簡易小屋がある。この時期、小屋の周囲はタカサゴユリの花に囲まれていた。地域にもよるが、海女さん達は冬の極寒の時期でも潜ることがあるそうだ。その日の仕事が終わると、小屋の囲炉裏に火を炊いて、仲間と一緒にその日採れた海産物を焼いて食べる。そして四方山話に花を咲かせる。そんな生活の様子をあるテレビ番組で見たことがある。

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海岸からの帰り、遊歩道を歩いていると、足下でガサガサ、バサバサという音がした。よく見ると、不運にも蜘蛛の巣に引っかかってしまったモンキアゲハが、懸命にもがいていた。両翅がボロボロになってなお逃れようと必死だが、もがくほどに糸が絡まっていかにも分が悪い。

蜘蛛は勝ち誇ったように糸を操りながら、まさに捕食を開始しようとしている。

日本で見られる蝶の中で最大級といわれるモンキアゲハも、小さな蜘蛛ごときにやられてしまうんだなぁと思うと可哀想になるが、一方で飛翔ルートを見定めて網を張り、待ちに待ってようやく超大物をしとめることに成功したこの蜘蛛にとってみれば、人生、いや蜘蛛生最高の瞬間に違いない。

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モンキアゲハ Papilio helenus

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ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius

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帰り道、 二見興玉神社に寄った。江戸時代、伊勢神宮に参詣した人たちの中には御師の案内のもと、付近を遊覧する人も多かったという。二見浦はその中でも代表的な景勝地だった。

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ちょうど干潮の時間帯だったのか、夫婦岩は半分陸地化していたが、写真撮影をする観光客が絶えなかった。夫婦で記念写真を撮るにはとても良い場所だ。

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イソヒヨドリ Monticola solitarius

広い海を見て何もかもを忘れて無になって、その日その日を一生懸命生きる生物の姿に元気をもらって、自分も何とかまた這い上がれるような気がした。

 

南京街歩きの記録(長江渡船と名所旧跡)

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もう随分前の話になるが、学生時代に奨学金をもらって南京に短期滞在し、中国語を勉強させてもらう機会があった。平日は朝から集中して勉強し、週末には息抜きに自由行動で色々な場所に出かけた。

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南京は武漢重慶、長沙と並んで中国四代火炉*1に数えられている都市で、夏季の蒸し暑さは筋金入りだ。実際、8月の私達の滞在中は最高気温が40度近い日々が続き、外を歩くとTシャツが汗でびしょ濡れになった。

そんな南京の夏は上半身裸のおじさんや、Tシャツの腹の部分をまくり上げて外を歩くおじさんが多く見られた。私達はこのスタイルを「南京スタイル」と呼んだ。そして自分達も「南京スタイル」を実践し、これこそ南京ローカルなのだと言わんばかりに得意気な気分で街を闊歩した。

同じことを南京の中でも新街口のような繁華街でやると顰蹙を買うかもしれないが、宿舎が位置する社区の周辺や私達が歩き回った場所は良い意味で雑然としていて、南京スタイルがよく似合った*2

今回はそんな南京の街歩きの記録を書いてみようと思う。

*1:火炉はボイラーの意。

*2:その後、北京では規制が始まったというニュースも流れた。まことに寂しい限りだ。

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桂林のタワーカルストを巡る旅(興坪郊外のサイクリングと老寨山登山)

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高校地理の授業でカルスト地形の勉強をしたことを覚えている人はどれくらいいるだろうか。カルスト地形には「ドリーネ」や「ウバーレ」などがあって、風化してできた土壌は「テラロッサ」で...という内容なのだが、とにかく用語が覚えにくい。そもそも「ドリーネ」とは何語なんだろうか...名前から地形のイメージが湧きにくいんだよなぁと思っていた。

一方、これらの用語の中で唯一わかりやすいのが「タワーカルスト」だった。形が想像しやすいし、例として資料集に載っている桂林の写真は一度見ると忘れられない強烈なインパクトを持っていた。 一度はこの景色を自分の目で見てみたいなぁと思ったのをよく覚えている。

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漓江から眺める老寨山の山容。頂上からの展望は絶景だ。

2017年2月にようやくその願いが叶った。友人とハノイを旅行した後、国境を越えて貴州のトン族集落を訪れ、その後桂林へ足を伸ばした。老寨山の山頂から眺めるタワーカルストの連なりはお世辞抜きに絶景で、山頂に1時間以上滞在して心ゆくまでその風景を眺めた。

  • 自転車で巡るタワーカルストの風景
  • 老寨山と興坪の裏山探検
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西湖龍井を求めて杭州へ

杭州の郊外を自転車で回った5年前の夏の記録。数々の漢詩の舞台となった西湖の風景を巡り、中国を代表する緑茶「西湖龍井」の産地を訪れた。

西湖の風景

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ユースホステルで自転車を借り、西湖を一周する。西湖の湖畔には石橋や楼閣、東屋や古寺が点在していて、全体で巨大な回遊式庭園のようだった。

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晴れ渡った空を映しながら、さざ波にゆらめく西湖の様子を、宋代の文人・蘇軾は「水光瀲灩晴方好」と表現している。1000年前の杭州もこのような風景だったのだろうか。

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夕方、日帰り観光客の波が去った蘇堤を自転車で風を切りながら走った。簾のように生い茂る柳の間から湖面が覗き、素朴な遊覧船が行き交う様子が見られた。午後になって天気は曇り、時折小雨も降ってきたが、蘇軾が「山色空濛雨亦奇」と表現したように、朦朧とした景色も西湖の魅力の一つだと思った。

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西湖一帯には蓮の花の名所も多い。蓮の花は、『愛蓮說』という宋代の詩の中で「出淤泥而不染(泥から出るのに泥に染まらず清らかな花を咲かせる)」と賛美されている。中国の夏を代表する花で、留学中は蓮の名所を求めてたくさんの庭園を訪れたのが懐かしい。

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中国の伝統建築で見る瓦屋根の反り上がり具合がとても好きだ。まるで古代から中世の英雄の口ひげでも彷彿とさせるような...

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龍井へ

西湖を一周した翌日は、西湖龍井の産地を訪れた。

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西湖から西へ自転車を走らせると山々の間に茶畑が広がり始める。

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まずたどり着いた茶葉博物館は茶畑と庭園に囲まれていて、まるでジブリの世界観を体現しているかのような素敵な場所だった。

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付近の茶畑を散歩していると小さな登山道を見つけたので、少し探検してみることにした。

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緩やかな斜面に沿って一面に茶畑が広がり、遠くには西湖の湖面と杭州の市街地が見える。

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展望の開けた場所に出ると、西湖の向こうに杭州市街のビル群がはっきりと見えた。

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自転車を置いた場所に戻って、また急な坂道を更に奥へ奥へと進んでいく。どんどん木々の緑色が濃くなっていき、やがて素朴で小さな茶商が一軒、また一軒と点在している一角にたどり着いた。

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森の中に隠れ家のような建物が点在していた。

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地元の人が集ってゆっくりお茶を飲みながら新聞でも読んだりお喋りを楽しんだりするのだろうか。

恐る恐る中へと入っていくと、一組の夫婦がお喋りをしながらお茶を飲んでいた。常客なのだろうか、老板娘と親しそうに話していて楽しそうだ。私はおどおどとしながらも、勇気を出して声をかけた。

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朝からご飯を食べず、山にも登って自転車も漕ぎっぱなしだったので食に飢えていた。まずは遅い昼ご飯にし、そして食後のお茶をゆっくり楽しむことにしてあとはお任せで注文した。

...提供された食事は明らかに2~3人前ほどの分量はあったが、あっという間に完食した。向日葵の種をかじりながら食後の緑茶を楽しみ、このロケーションであれば、本でも持ってくればエンドレスに楽しめそうだなぁと思った。

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老板娘と夫婦の間の会話が断片的にしか聞き取れないが、聞くと杭州の方言なのだそうだ。この時何を話したかもう忘れてしまったが、おじさんの方は仕事で日本に行ったこともあるということで、夫婦2人共とても親しく接してくれたのをよく覚えている。

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お腹が落ち着くのを待って、ユースホステルまでゆっくりと自転車を走らせた。日本の茶産地ととても良く似た風景が広がる一角があって、時々休憩しながら風景をカメラに収めた。

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部屋に帰ると同室には個人旅行の大学生が2人。一緒に夕食を食べに行き、食後にはみんなで暗い夜道を歩いて銭塘江大橋を見に行った。夜の水辺にたたずみながらライトアップされた橋をボーっと眺めた。

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自分が好きだったのは、こういう飾らない中国の風景と人だったんだなぁ...