休学中の記録

タラナキ山の森とシダ植物

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ニュージーランドはシダ植物の宝庫です。特に葉の裏側が白いシルバーファーンはニュージーランドの国章とでもいうべき存在で、ラグビー代表チーム「オールブラックス」のユニホームのデザインにも使われていますし、ニュージーランド航空の機体にも大きくシルバーファーンがデザインされています。

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また、面白いのはシダ植物の多くに英名、学名の他に先住民族マオリによる呼称があることです。マオリの人々は伝統的に様々なシダ植物を食材として、或いは生活道具の材料などとして使っていたようです。民族植物学的な視点で様々なシダ植物の利用法を調べてみるのもきっと面白いのではないかと思います。

ところがニュージーランドを普通に旅行しているとあまりシダ植物に出会う機会は多くないかもしれません。というのも、ニュージーランドでは広い面積の土地が牧草地等として切り開かれているからです。国土の森林率は約35%で日本の約2分の1に過ぎませんし、牧草地にはシダ植物の姿はあまり見られません。

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飛行機から見たニュージーランドの大地。
森林はスポット的に急傾斜地に残っているにすぎないようだ。

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南島Lake Hawea周辺の景色。山の上まで広く開拓されている

シダ植物を観察しようと思うと、やはり原生林が保護されている国立公園をトレッキングするのが一番良いでしょう。私が歩いた中で特に印象深かったのは北島のタラナキ山の森で、林床をびっしりと覆うシダ植物は本当に壮観でした。

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Lomaria discolor

ニュージーランド北島、南島問わず森林の下層植生として広く見られるシダ植物。

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タラナキ山麓の森は背丈の高い木生シダも豊富で、シダ植物だけで一種の階層構造を形成していました。特に沢を渡る吊り橋から眺めた鬱蒼とした森は見事でした。

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Cyathea smithii

木生シダの一種で、谷の源頭部や伐採跡地など少し開けたところで見られることが多いようです。幹の長さは5mほど、葉の長さも2.5mほどと大きなシダです。

ニュージーランド森林限界が低く、地域(緯度)にもよりますが標高1,000mを越えればもう高山帯へと移行します。5年前に滞在していたころは森林よりも展望の良い高山帯の景色が好きで、森林区間は快速で飛ばすように歩いていました。でも、今になって写真を見返してみると、シダがびっしり茂る多雨林の風景こそがニュージーランドらしいように思えます。

もし機会があれば、次回は西海岸のフィヨルドランド国立公園の森などをゆっくり歩いてみたいな、と思っています。

週末伊豆②伊東温泉で過ごす休日

伊豆半島を旅行する時、伊東までは鉄道でアクセスすることが多いです。都内や横浜から車を運転するしんどさや渋滞などを考えると、やはり鉄道が快適です。

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鉄道自体は下田まで伸びていますが、伊東から先は伊豆急区間になるので運賃が別途加算されて高くなってしまいます。ですので伊豆急には申し訳ないですが、伊東まで列車に乗った後、伊東でレンタカーを借りて半島を回ることが多いです。

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伊東で宿泊するときは「K's house伊東温泉」を定宿にしています。K's houseは日本全国で主に訪日外国人向けのホステルを展開しているのですが、この伊東温泉のK's houseは老舗温泉旅館の跡を引き継いでリノベーションされた施設です。旅館の良さとホステルの良さが最大限に活かされていて、とても居心地が良いところです。

近年はインバウンドが増えるに従って予約が取りにくくなっていたのですが、最近になってまたコロナの影響で宿泊がしやすくなりました。

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1階の受付奥のスペースは共有スペースと台所になっています。暖かい飲み物を飲みながら旅行書を読んだりボードゲームを楽しんだり、思い思いに過ごすことができます。

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小上がりのスペースもとても雰囲気が良いです。窓の外は川になっていて、水のせせらぎを感じながら、朝ゆっくりトーストを食べて珈琲を飲むのも良いですし(台所に無料の珈琲があります)、夜は晩酌を楽しむのにも最高の場所です。

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最上階の望楼からは伊東の町並みが見下ろせます。

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大広間や客室、トイレのタイルのデザインなどは旅館の雰囲気のままで、中をうろうろ歩いているだけでも楽しめます。

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ホステルスタイルなので食事の提供はないですが、伊東はおいしい魚が食べられるお店がたくさんありますので外で食べるのも良いですし、台所はとても使いやすいので自炊するのも良いです。

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台所には旅館「いな葉」として営業していた時代から引き継がれた食器や酒器などがたくさんあって、自由に使うことができます。食器が綺麗だと適当に何か作っても見栄えが良くなるのが嬉しいです。

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また、駅前のマックスバリュでスーパーで半額の刺身とお酒を買うのも良いです。

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地元の商店で干物を購入して、朝はそれを焼く、というのも伊豆らしくて良い体験になるかもしれません。自炊もなかなか楽しいものです

そうそう、干物と言えば思い出すのが、伊東のもう一つのお気に入りの宿は「緑風園」というホテルです。広々とした露天風呂はもちろん、朝食のアジの干物を自分で焼いて食べられるのが一番嬉しいサービスだったりします。

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K's houseの目の前には「まとい」という鰻屋さんがあって、ここも2回ほど訪れました。朝ごはんを食べて、朝風呂に入って、川沿いや商店街を散歩して、昼は鰻を食べて...というのが定番のコースです。

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伊東を流れる大川の風景

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さて、伊東温泉から足を伸ばせる場所はたくさんありますが、代表的なのは城ヶ崎海岸でしょうか。大室山の溶岩流によって作り出された迫力ある地形が楽しめます。海岸沿いの遊歩道と吊り橋が名物ですが、釣りの人も多く、稀に海岸の岩場でクライミングを楽しむ人も見られます。

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また、伊豆半島最高峰の万三郎岳をはじめとする天城の山々は、展望こそ無いのですが、ヒメシャラとブナの美林はこの山域ならではのもので見ごたえがあります。伊東温泉から登山口まで路線バスも出ています。

...自然景観、温泉、食べ物に恵まれた伊豆半島ですが、伊東は伊豆の旅を始めるのに絶好なスタート地点だと思います。


 

ニュージーランドの山で出会った鳥

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ニュージーランドは大陸から長く隔絶された歴史を持ち、固有の生物相を持っています。鳥類についても固有種がたくさん棲息しており、飛べない鳥である「カカポ」や「タカヘ」などはその中でも特に有名でしょうか。一方、ポッサムやオコジョなどの外来哺乳類による補食の危険にも晒されており、多くの固有種が絶滅を危惧されています。

そんなニュージーランドでは「New Zealand Threat Classification System」において、鳥類を含む生物を絶滅リスクの深刻度に応じて以下の通り分類しており、それぞれ保護が行われています。

1)Nationally Critical
Most severely threatened, facing an immediate high risk of extinction:

2)Nationally Endangered
Facing high risk of extinction in the short term:

3)Nationally Vulnerable
Facing a risk of extinction in the medium term:

日本でいう絶滅危惧Ⅰ類やⅡ類などに相当するものと言えるでしょう。

これらに指定されている鳥は生息数が多くないので都市で見ることは少ないですが、国立公園の自然の中に入っていくと比較的頻繁に観察することができます。今回は私が山に登る中で観察できた鳥を紹介したいと思います。

Kea (Nestor notabilis)

Kea(Nestor notabilis)はニュージーランドの山を代表する鳥で、その名の通り、「キーア!」という甲高い声で鳴きながら高山を飛び回っています。

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フィヨルドランド国立公園のLivingstone Rangeにて2016年2月撮影。

50センチほどの体長にエメラルドグリーン、エメラルドブルーに輝く羽を持っていて、その飛翔する姿はとても風景に映えます。好奇心が強く、登山者に接近してくることも多いため、比較的撮影チャンスには恵まれます。一方で登山者のテントがKeaによって破壊されるなどの被害も後を絶たず、少々厄介な存在でもあります。

自然保護局(Department of Conservation)によると生息数は3000~7000羽で、上記の基準で2)Nationally Endangered に指定されています。

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Cascade Saddleにて2016年2月撮影。

New Zealand rock wren (Xenicus gilviventris)

New Zealand rock wren (Xenicus gilviventris)はニュージーランド固有のイワサザイ科の鳥で、南島の高山帯、亜高山帯のみに生息しています。脚が長く、頭部に白い筋があるのが特徴的でしょうか。地上近くをちょこまかと動き回るのが特徴ですが、そのため撮影するのは大変でしたし、うまく撮ることができませんでした。

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マウントアスパイアリング国立公園、Cascade Saddle手前の森林限界付近にて2016年3月1日撮影。

New Zealand rock wrenは冬季にも低地に移動することなく高山の岩場で越冬するそうです。捕食者となる外来哺乳類が入り込むことが難しい環境に生息することから、絶滅を免れてきました。一方、近年では地球温暖化などに伴って卵や幼鳥がオコジョなどに捕食されやすくなり、生息数の減少が強く懸念されているとのことです。上記基準で2)Nationally Endangeredに指定されています。

Banded Dotterel(Charadrius bicinctus ssp. bicinctus)

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Tongariro Northen CrossingのEmerald Lake下で2016年1月15日に撮影。

Banded Dotterelは胸元に茶色い模様があるのが特徴的な小さな鳥です。通常は海岸地帯や低地の河床などで見られることが多く、山の上で見られることは珍しいようですが、稀に繁殖期の個体が北島火山地帯などで観察できるようです。私は北島のトンガリロ国立公園で偶然目にしました。

上記基準で3)Nationally Vulnerableに指定されています。

参考

以上記述の多くは上記ウェブサイトを参考にしました。詳しい解説と豊富な写真でニュージーランドの鳥を紹介しており、鳥を分類や生息地域などから検索することができるのでとても便利です。

Photographic Guide to Birds of New Zealand

Photographic Guide to Birds of New Zealand

  • 作者:Moon, Geoff
  • 発売日: 2012/02/01
  • メディア: ペーパーバック
 

書籍を探している人には、Photographic Guideのシリーズがおすすめです。あまり写真や印刷の質は良くないような気もしますが、ポケットタイプでフィールドに携行できるのは便利です。鳥類の他にも高山植物、シダ植物、昆虫など様々な書籍があり、一式揃えればニュージーランドの自然観察が楽しくなります。


週末伊豆①松崎の町と雲見温泉

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伊豆半島西部に週末旅でよく訪れています。海の景色が楽しめるので、スピッツの「青い車」や「渚」などをBGMに流しながら車を走らせると最高ですし、天気が良ければ海越しに富士山や愛鷹山南アルプスの山並みが見られるので、山好きにも嬉しいところです。

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伊豆半島でこれまで良く立ち寄ってきたのは松崎町です。立派な海鼠壁を持った家が多く、町歩きが楽しいところです。

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松崎では明治期に養蚕業、林業、漁業などで栄え、富を成した人達が防火性に優れた堅牢な海鼠壁の家を競うように建てていったということです。そんな建物が町内にたくさん残っています。

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早春の時期に行くと、雛飾りがとても綺麗です。上写真のものは、自由見学できる明治期の商家・中瀬邸に飾られていたものです。この時期、伊豆では早咲きの河津桜が満開を迎えます。桃色の河津桜と豪華絢爛な雛飾りは伊豆半島の初春を鮮やかに彩ります。

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散歩の合間には「フランボワーズ」でケーキを食べるのがおすすめです。ケーキがおいしいのもそうですが、接客も心地よくて、庭の樹木を眺めながら本を読んだり、ゆっくり時間を過ごせます。

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夕方、日が落ちる前には岩科学校へ向かいました。岩科学校は1880年には竣工されているそうなので、日本各地で見られる擬洋風建築の中でもかなり初期のものになります。まだ明治の教育制度が始まったばかりの時期に、住民の寄付の力で立派な学校を立てたわけですから、この地域はかなり早くから文明開化が進んでいたということなのだと思います。

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さて、夜はいつも雲見温泉に投宿しています。雲見は松崎の町から海岸の少し細い道を進んで2つ~3つくらい浦を越えたところにある素朴な漁村集落です。小さな川沿いに民宿がたくさん立ち並んでいるのですが、多くの場合網元が民宿をやっているようで、とても新鮮な魚を味わうことができます。この日は4人で宿泊したので、とても豪華な船盛りが出ました。

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また別の日に行った時は、オオモンハタなどの船盛りに伊勢海老の刺身が付くプランでした。伊豆はわさびの名産地でもあり、船盛りには生わさびが付いているのも嬉しいです。海鮮をお腹いっぱい食べると、温泉に入って一日が終わります。雲見温泉のお湯は無色透明で少ししょっぱいのが特徴です。

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二人以上で宿泊するなら船盛や豪華な夕食も良いですが、一人で旅をするという場合は松崎のマックスバリュで半額の刺身と手ごろな地酒を漁ってから、宿に帰ってしっぽり飲むというのも一つの選択肢です。

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干物にビールという組み合わせも、個人的に好きな晩酌スタイルです。ビールは特にこだわりがある方ではないのですが、サッポロビールの伊豆ラベル、「静岡麦酒」は見かけたらいつも購入してしまいます。伊豆ラベルは2~3年前までは良く見かけたのですが、最近はあまり見つけられません。一方で「静岡麦酒」の方は今でも熱海駅売店伊東駅からほど近い酒屋などに売っていますので、見かけたら必ず調達するようにしています。

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さて、宿でゆっくり時間を過ごしてから朝遅くまで惰眠を貪るのも良いですが、雲見温泉では頑張って早起きするのがおすすめです。天気が良い日には、海に浮かぶ「牛着岩」越しに富士山が朝日の中に浮かび上がって、それは素晴らしい景色が楽しめます。

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宿に戻ってまた一風呂浴びると朝食の時間になります。複数人で泊ると、前日の刺身にした伊勢海老の味噌汁が付きます。

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またある日の朝は朝食無しのプランだったのですが、静岡塩ラーメンとみかん、そして丹那牛乳というの組み合わせを楽しみました。丹那牛乳は伊豆半島や静岡の県東で販売されているローカル牛乳で、見つけたらいつも購入してしまいます。

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宿を出て、再び海岸に出ます。「想い出岬」と名付けられたところまで歩いて行くと、駿河湾の向こうに富士山のみならず南アルプスの山並みまで見渡すことができました。真っ白な雪を被った北岳から始まり、悪沢岳赤石岳聖岳、光岳、そして深南部の山々まで長大な山並みが一望のもとです。駿河湾は深いところで水深2500m~3000mくらいはあるらしいのですが、そうすると富士山山頂や南アルプスとの高低差は多いところで6000mくらいあることになりますから、地形のスケールがものすごく大きい場所なのですね。そしてこの高低差が豊かな漁場を育んでいます。

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清水港で紹介されていた駿河湾の魚種と生息域

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想い出岬からは雲見温泉のすぐ側に聳える烏帽子山が良く見えます。烏帽子山は地形的には「火山の根」というものらしく、火山の下で冷えて硬く固まったマグマが、周りの岩石の侵食によって洗い出されたものだそうです。海に突き出した絶壁の山で、山頂からは富士山はもちろん、伊豆半島西海岸~南海岸が一望できます。

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ある冬の日、烏帽子山の急な参道を登り、最後の急な岩場を手すりにしがみ付きながら山頂へと登りました。山頂は飛ばされてしまいそうなほどの西風が吹き荒れていていました。断崖に打ち付ける荒波は、山頂の浅間神社に祀られている磐長姫が嫉妬に荒れ狂っているのを彷彿とさせるもので、ちょっと恐怖を覚えるものでした。この烏帽子山は標高162mほどですが、展望抜群でとても登りごたえのある山です。

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入間千畳敷

松崎からは南下して入間千畳敷石廊崎に向かうのも良いですし、北上して堂ヶ島の奇岩を楽しむのも良いです。

伊豆で過ごす休日は本当にリフレッシュできるのでおすすめです。

 

八丈島で観察した動植物(低地編)

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八丈島を歩いていると、本土ではなかなか出会えない植物にたくさん出会えます。植栽されているハイビスカスや椰子の木は亜熱帯ムードを演出してくれますし、三原山にはオオタニワタリリュウビンタイ、ヒカゲヘゴなど大型シダ植物が自生しています。

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それでは今回観察した植物を備忘録代わりに記録していこうと思います。

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