休学中の記録

海外の山に登るための考え方とアドバイス

  • 扉~海外の山への招待状~

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Fiordland National ParkのValley of Trollsを遡行した先にある別天地、Lake Wilson。いつまでも湖畔に滞在していたいが、ここはまだ旅の序章にすぎない。この先Serpentine Rangeの稜線には更なる絶景が待っている。(ニュージーランド

 

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林床を覆う豊富なシダ植物はニュージーランドの森林の大きな特徴である。

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Mt Aspiring Nationa Park のLochnagar湖畔に佇む山小屋。(ニュージーランド

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Hooker Valleyから標高2121mのBall Passを越えてTasman Valley側に抜けると、ニュージーランド最高峰Mt.CookのCaroline Face と懸垂氷河が目の前に聳える。

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夕暮れ時、西南稜の断崖絶壁から見る台湾第2の高峰・雪山の威容。刻一刻と闇が迫る危険を忘れてつい見とれてしまった瞬間。

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台湾東部の町・花蓮の海岸線からたった10キロの場所に位置する3000m峰・帕托魯山に登ると、眼前には中央山脈の高峰が屏風のように連なる。照りつける明るい陽光とどこかしっとりとした雲の質感は亜熱帯の高山ならでは。

  • はじめに

僕は休学前、大学のワンダーフォーゲル部の一員として日本各地の山を登っていた。ワンダーフォーゲル部で山に行く時は、自分達で一切の準備をする。過去の記録をできるだけ集め、地形図に尾根線・谷線を引き水源などの重要情報も自分達で全部書き込んでいく。そして登山道であれ沢であれ藪の稜線であれ(冬山をやっている人なら雪山であれ)、「登山を始めたばかりの大学生」という技術・体力面での制限はありながらも、その範囲内で限りなく自由に行く場所を設定することができた。

同じことを海外でできないだろうか?と考えた。僕達が今まで日本でやってきたように、海外でも自由に山を歩いてみたかった。

しかしそれは当然困難を伴うものだった。それでは具体的にどんなことが困難だったのだろうか?

  • 海外登山における障壁

一つ目は言語の違いから来る情報収集の困難性である。海外で山に行くなら、現地から発信される情報が最も詳しく新しく正確で頼りになる。しかしながら現地で使われる言語能力が無い限りそれらの情報を理解することはできない。

↑台湾の登山において役に立つ情報源の例(中国語繁体字

New Zealand Tramper: hiking and walking community information

ニュージーランドの登山において役に立つ情報源の例(英語)

 

二つ目は、地図の入手困難性である。日本にいると1/25000地形図が書店で買えるし、山と高原地図のような登山地図やガイドブックの類があるし、GPSデータも集めやすい。一方で海外だと地図を入手するのは必ずしも容易ではない。そもそも地図データが体系的に整備されていないかもしれないし、一般に公開されていないかもしれない。

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三つ目は交通の問題である。日本のように平地・都市と山が近く、かつ全国に鉄道・バス・高速道路・林道などの交通網が発達した国であれば、登山口までの交通について通常心配する必要はあまりない。しかし、海外だと登山口まで辿り着けるかどうか、そして辿り着けるとして一番近い都市からどのくらいの時間がかかるのかが不確定要素になってくる。

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四つ目は装備・食糧調達の問題である。自分で焚火をして調理するのでなければガスを購入する必要があるし、狩猟採取の生活を行うのでなければ食糧はスーパーマーケット・商店・市場のような場所で調達する必要がある。決して日本のように簡単に手に入るとは限らない。

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5つ目は緊急時の対応の問題である。山の上でトラブルが起きた時、誰とも連絡できないし救助を呼ぶこともできない状況はあまり想像したくない。

  • 障壁を一つずつ解決していく

これらの問題を解決できたのが台湾とニュージーランドだった。中国語と英語なら登山関連の書籍は理解できるし、流暢でないにしろ現地の人達と会話ができる。こういう時のためにも第二外国語はしっかりやっておいた方が良い。

地図は、ニュージーランドならネットで公開されているし、台湾は現地の登山社に問い合わせることで手に入れることができた。

そして二国とも発展した国であるから装備、食料は登山用品店やスーパーで日本と同じように調達できるし、島国だから山と平地の距離が近く、交通面もさほど苦労せずに済む。実際、台湾では列車とバスを主に使い、ニュージーランドは主にヒッチハイクを駆使しながら登山口まで容易に短時間でたどり着くことができた。

緊急時の対応については、台湾は現地の連絡先に計画を伝え、登山口や主要な山頂など携帯電波が入る場所で逐次連絡を取ることにした。ニュージーランドは人口密度が希薄で少し街を離れるとまるで携帯電波が入らないので、まずこのサイトを使って計画を他の人に伝えておくと共に、いざという時に救助要請ができるようにPLBをレンタルすることで解決した。

こうして、一つ一つの課題をクリアしていった上で計画を立てた。

(※)元々は環太平洋の島国という枠でインドネシアの山に足跡を残すことも考えていたが、既に以下のように本が出されているようだから、今から僕ができることは少ないかもしれない。

BIG | Bersama Menata Indonesia Yang Lebih Baik

地形図はかなり整備されているようだ。

インドネシア山旅の記 (YAMAKEI CREATIVE SELECTION Frontier Books)

インドネシア山旅の記 (YAMAKEI CREATIVE SELECTION Frontier Books)

 

 インドネシア登山説明会(平成27年7月18日)のお知らせ - 公益社団法人日本山岳会

日本山岳会の事業としてインドネシアの登山ガイドブックを出版しようという計画がある。

同じく環太平洋のフィリピンも多くの山がある。上のサイトはかなり参考になることだろう。

NAMRIA | The Central Mapping Agency of the Government of the Philippines

フィリピンの地形図

  • おわりに

海外で山に登るのは決して簡単なことではない。けれども、数々の障壁を乗り越えて未知の山々に足跡を残していくのは非常にやりがいのあることである。今回の記事が、より多くの人が国境を越えて登山を行うための契機になると嬉しい。

そして同時に、今回の記事で述べた「日本人が海外登山で直面する障壁」は、「外国人が日本で登山をする時に直面する障壁」と同じである。つまり、今回提示した考え方は海外の人々に日本の山に来てもらうにあたって必要とされる情報発信、条件整備の指針にもなると自負している。