休学中の記録

孤独のグルメ(クアラルンプール・バンコク編)

7月のある日、仕事でマレーシアとタイに行くことになった。

今回の仕事はイベントの実施に伴うものだった。イベント実施のほかにも、現地企業の訪問・情報収集や打ち合わせ等スケジュールを詰めており自由時間はあまりなかった。ただ、せっかく行くのだから現地の街の雰囲気や文化を味わいたいと思っていたので、仕事が終わった夜を中心にグルメを食べたり観光をしたりした。以下はその記録である。

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クアラルンプールで1社目の訪問を終え、昼食はnasi lemak(椰漿飯)。ココナツミルクで炊かれたご飯に、フライドチキン、目玉焼き、胡瓜、小魚と豆の炒め物、エビとプタイのサンバル炒めが添えられておりかなり豪華だ。この「プタイ」と呼ばれる黄緑色の豆の味と匂いと食感は生のニンニクを更にキツくしたような感じでかなり強烈だった。「体が臭くなるから気をつけてね」と脅されたので午後の2社目の訪問を前に、eclipseのミント味を一粒口に入れリフレッシュしておいた。

後で会った現地の人に話したところ「プタイは膀胱に良いんだ」ということだった。今のところ膀胱をいたわる必要性は感じていないが、ともかく多分体に良いことは間違いないと見た。

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2社目の訪問とイベント会場の下見を終えて、夜はバクテー(肉骨茶)。マレーシアはムスリムの国であるというイメージがあるが、全体の人口の1/4程度を華人が占め、華人の食堂・レストランでは豚肉を食べることができるしアルコールも問題ない。華人には経済的に豊かな人が多いのでマレーシアでビジネスをする場合には華人との付き合いが必然的に多くなる。彼らの話す中国語は何となく台湾人と近いところがあり、自分も中国語を話す機会が非常に多くなったので、やりやすい部分はあった。そういえばかの有名歌手の梁靜茹もマレーシア籍なのだった。

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食後はJalan Alorに向かい、ドリアンを食す。僕が訪れた7月はちょうどシーズンであった。「貓山王」は「果物の王様」と呼ばれるドリアンの中でも最も高級な品種で、なかなか食べられるものではないようだ。

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中身は銀杏のような色で食感はクリームパンの中のクリームのような感じでねっとりとしている。既に晩飯をお腹いっぱい食べた上にドリアンを食べるのでその匂いには結構やられたが、何とか完食。手の匂いも口の中の匂いも完全にドリアンと化してしまったが、現地の人の勧めでドリアンの殻に水を入れ、その水で手を洗い、その水を口に含んで飲み干すと匂いが多少中和されて爽やかになった。これは非常に不思議な現象だった。

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最後にクアラルンプールの象徴とも言えるペトロナスツインタワー。KLCCと呼ばれる一帯はショッピングセンターや5つ星ホテルが多く立ち並ぶほか、熱帯植物の植栽や噴水がある公園として整備されており、市民や観光客の憩いの場となっている。

次の日は朝8時の便でバンコクへの移動があったが、ペトロナスツインタワーを見上げているこの時点で既に午後10時半。ホテルに戻って荷物を整理していると睡眠時間はほぼ無くなってしまった。翌日はまだ暗い中午前4時半頃にGrabのアプリでタクシーを呼んで空港に向かった。

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さて、バンコクへ移動して同じく所用を済ませ、夜はBTSに乗ってสะพานตากสิน(Saphan Taksin)の駅まで向かい、そこからチャオプラヤ川のボートの停船場に向かった。 

チャオプラヤ・エクスプレスは夜になると便数が激減する。船のチケットを売るおばちゃんにワット・アルン(暁の寺)もしくはワット・ポー(涅槃寺)の最寄りの停船場に行きたい旨伝えたが、「NO!」の一点張りだった。何が「NO」で代替の選択肢は何なのかよくわからなかったが、来た道を戻るわけにもいかないので、方向が合っていることを確認の上来た船に飛び乗った。一人だとこういうところが気楽で良い。失敗しても良い、というか「失敗」という概念がそもそも集団行動をする場合と異なっている。一つ一つの行動に対する説明責任は無いし、自分の行動に対する責任は自分で取れば良い。そして仮に変な場所に辿り着いてしまっても、いざとなればタクシーを使っても金額は知れているのだ。かつて学生時代、バックパッカーとしてアジアを旅した時の心地よさはそんなところにあった。「気楽に、気のおもむくままに...」。 

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夜の心地よい川風に吹かれながら。

ボートは川沿いの高級ホテルをいくつか通り過ぎながら上流へ向かった。河面にはキラキラと眩いライトを放つクルーズ船の姿があるかと思うと、不気味な暗い色をした重厚長大な貨物船に前の視界を遮られたりする。

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しばらくすると、目的地と考えていたワット・アルンの姿が見えた。おばちゃんの言った通り、この船はワット・アルンには停まらず結局やはり思いのほか上流まで連れていかれることになった。このためワット・アルンはとりあえず諦め、停船場がちょうど王宮の近くであったのでとりあえずライトアップされた王宮の周りをぐるりと歩いた。しかし高い壁に阻まれて中の様子は伺えない。続いて隣接するワット・ポーにたどり着いたので同様に中の様子が伺える場所がないかと思いぐるぐる歩いていると、入場時間は過ぎているはずなのに開いている門があった。恐る恐る中を覗いてみると、ガイドに連れられた白人の家族が観光中であったので「これは大丈夫なのだ」と思い足を踏み入れた。

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夜のワット・ポーは、有名な巨大涅槃像がある建物内には入れないが、仏塔が立ち並ぶエリアは夜でも歩くことができる。タイの歴代国王を祀る仏塔がライトアップされ、静けさの中に浮かび上がって幻想的だった。

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幻想的な風景にしばらく浸り、続いてネットで調べておいたプーパッポンカリー(蟹と卵のカレー炒め)お店へ向かう。

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Sサイズを頼んだが、一人分にはとても多い。蟹の殻を取るのが大変だが、ふわふわの卵に蟹の味が染み込んでおり、添えられた葱が味のアクセントになっていて絶品だった。出張先で一人で食事をしていると、気分はすっかり孤独のグルメだ。値段は380バーツ(約1300円程度)と決して安くはない。以前バックパッカーをしている時はこんな高級なものを食べることはなかったが、今はビジネストラベラーなのだ。。

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店の前にはたくさんの蟹が活きたまま縛られていた。泡を吹いている蟹やなんとか脱出しようと七転八倒している蟹もいて、「蟹に攻撃されるので注意」といった意味の注意書きが書かれていたので、さっと遠くからズームで写真を撮ってその場を離れた。

帰りにLEOビールをセブンイレブンで買って飲みながらMRT(地下鉄の駅)に向かって歩いているとマーケットを通りすぎた。手頃なお土産でもと思ったが大したものはなく、マーケットの中へ中へ入っていくとその脇にはたくさんのゴーゴーバーがあり、中では沢山の女性が踊っていた。タイ人女性を連れて歩く日本人のおっさんの姿も少なからずあり、後で調べるとここがパッポンと呼ばれる有名なエリアらしかった。そんなこんなでこの日は宿まで帰って寝た。

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最終日、午前の予定を終え、お土産用にメコンウイスキーとサンソン(ラム酒)を購入するためにBTS(高架の軌道交通)に乗ってSiam Paragonにあるショッピングセンターへ向かった。後で気づいたが、この2種類の酒はバンコクスワンナプーム空港内部の免税店でほぼ同じ値段で買うことができる。しかも少し値段は高くなるが、グローバル化が進むこの時代、アマゾンで日本国内で買うことだってできたようだ。わざわざショッピングセンターに行って買うことは全くなかったし、購入後この重さを背負って暑い中歩き回るのはかなりきつかった。

MEKHONG TAIRIQUOR(メコンタイリカー)700ml

MEKHONG TAIRIQUOR(メコンタイリカー)700ml

 

その後タイ国内の地図帳を探してショッピングセンター内にあるAsia Booksという書店に行ったが、自分が探し求めているものはなかった。失意の中、とりあえずおいしいものを食べようと、猛暑の中をコンベンションセンター伊勢丹を回りこんで人気のカオマンガイ店に向かうが、こちらも長蛇の列。色んなことがうまくいかず時間のみが過ぎていく。そもそも昨日食べたプーパッポンカレーがかなりお腹の中に溜まっており、暑い中食欲もそれほどなかったので、昼飯抜きを決意して帰り道の経路を探そうとgoogle mapを開くと「フェリー乗り場」が目に入った。

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バンコクの水上交通は南北に走るチャオプラヤ川沿いのみでは無くて街中を東西に走るセンセープ運河に沿って、ボートが走っているようだ。コンクリートで固められた現代都市の間を縫って走る船のローカル感に惹かれて乗り場へ向かった。

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センセープ運河のボートの駅は道路橋を渡り、階段を降りて運河沿いにローカル食堂が雑多に入り組んだ路地をくぐり抜けた場所にあった。

バンコクの街中は時間を問わず渋滞が激しい。渋滞につかまると全く動けなくなってしまう上に、交通規制がかかっている区間もあるため、タクシーに乗ってもかなりの時間を要してしまうことが多い。それなら、適当な場所までボートで東に向かい、そこからタクシーで帰る方が効率的だろうと考えてボートに飛び乗った。

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ボートは水を切りながら高速で進んだ。運河は狭いので、ボートが掻き分けた水は側壁で跳ね返って波となって中心へと戻ってくる。そのため特に狭い場所は少しスピードを落としながら進む。運河に沿って時には木々が生い茂り、時には露店が並び、各停船場では時々制服を着た学生が乗り込んできたりした。地元の人にとっては日常に過ぎないが、自分にとっては一種のアトラクションだった。

そしてそろそろかなと思ったタイミングでgoogle mapを開くと愕然とした。方向を間違えて西に向かう船に乗り込んでしまったのである。午後3時にアポイントを入れており、この時点で既に午後1時45分。時間がかなり危うくなってしまったので停留所で飛び降りる。そして反対方面の停船場を探すがよく見つからないので、仕方なくタクシー利用に切り替えることに決める。

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後になって知ったことだが、僕が降りたこの停船場は終点であり、奥に見えている寺院はワットサケートというバンコクの街を一望できる観光名所であるらしい。さて、船を降りて辺りに沢山停まっているトゥクトゥクに乗っても良かったが、利用する前からボラれてしまうのではないかと何だか怖気づいてしまい、普通のタクシーを探すことにする。しかしなかなか空きのタクシーがつかまらず焦りが募る。やっとの思いでつかんだタクシーに行先を伝えるも、「今、市の中心部は交通規制がかかっているから、一旦Phaya Thai という場所まで行きそこからBTSに乗って向かう方が良い」とのこと。地図で調べると確かに別に遠い場所でもなく、実際中心部にかけてかなり渋滞が激しいようだったので運転手の言う通りに従う。なかなか前に進まないタクシーに、どうしようもないことを知りながらイライラと貧乏揺すりをしつつ、やっとのことでBTSの駅につき、ちょうどやってきた列車に飛び乗った。

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いつの時間帯も渋滞が激しいバンコクの街。

最寄り駅に着くと、ギリギリでアポイントの時間に間に合いそうだった。しかし小走りでgoogle mapの位置情報を頼りに待ち合わせ場所のオフィスに向かい、レセプションで「Iさんとアポイントがある」と伝えたところ、僕が目指しているオフィスではなくIさんという同じ名字の人が偶然住んでいるマンションの一室に案内されたので思わず苦笑。googlemap 上の位置情報があまり正しくなく、表示された場所がマンションであるようだった。この時点で約束の時間を過ぎていたので「これは終わった」と思いながら、「大変申し訳ございませんが、道に迷いましたので少し遅れます...」という旨連絡をし、外に出ると今度はスコールに降られる。ずぶ濡れになりそれでも目的地が見つからず、藁にもすがる思いで近くのマッサージ店で道を聞いたところ、英語のできる店員を呼んでくれて調べてくれた。

この店員はとても親切で「この2軒隣のビルですよ」と言いつつ、別の従業員に言付けて濡れた体を拭くためのタオルを持ってきてくれた。感激してお礼を言い、「あとで寄ってくださいね」という声を後ろにすっかりスコールの上がった中を歩いた。

ようやく着いた場所で仕事は一応こなしたものの、物見遊山をしたばかりに約束の時間に遅刻するのは社会人として失格だと思いながら、少し落ち込みつつ最後の食事。

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ソムタム。パパイヤの細切りサラダ。生のいんげん豆が少しピリ辛で、色のアクセントにもなっていて良い味を出している。

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カオソーイ。タイ北部~ラオスにかけてよく食べられている麺料理らしい。油で揚げられた麺をカレースープに絡めて食べるとおいしい。 

そうこうしているうちに帰りの飛行機の時間が近づいてきた。名残惜しさを感じながら、空港への道を急いだ。直行便で日本までわずか6時間強。日本に帰国するといつの間にか導入されたパスポートの自動読み取り。帰国審査が効率化されているのに驚きと時代が着実に前に進んでいるのを感じながらながら帰路についた。

こうしてあっという間に1週間が過ぎていった。