休学中の記録

雌阿寒岳登山と秘湯野中温泉(オンネトー野営場泊)

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旭岳~トムラウシ縦走登山の続き。少し気分を変えて日記風に記録を書いてみる。トムラウシから下山して「国民宿舎 トムラウシ温泉東大雪荘」に泊まった。

7月23日

山のリズムが体に残っていて、朝早くに目が覚めた。せっかくなので露天風呂にゆっくり入ってから朝食をとる。沢の清々しい水音に心が洗われる。

食後は共用休憩スペースのソファーに座り、足を投げ出して新聞や風景写真集などをゆっくり眺めつつ、テレビをつけて北海道ローカル特集や天気予報を見たりしながら快適な温泉宿ライフを満喫する。天気予報によると道南地方、道北地方は雨模様も見られるが、道東の向こう数日間の天気は概ね良いようだった。

元々計画は柔軟で、トムラウシから下山後は十勝連峰に登るか、利尻を目指すか、色々な選択肢を用意していたが、道東の天気が良いことを考慮して阿寒方面を目指すことに決めた。

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朝10時に宿のシャトルバスが新得の駅まで送迎してくれるので、それまではまったりと過ごした。さて新得駅に着き、「明日から仕事だ」とぼやくサラリーマン登山者達が札幌方面に向かうのを横耳で聞きながら、自分は道東を目指して逆方向に帯広・釧路方面の列車に乗るのは気分が良い。

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列車はゆっくりと十勝平野の畑作地帯を進んだ。釧路まで距離がそこまであるわけではないが、普通列車は駅に着くたびにすれ違いや時間調整などで数分間、時には10分間以上も停車するので遅いことこの上ない。

今回は釧路駅の手前で、阿寒湖までのバスが発着する「大楽毛」の駅で下車した。アイヌ語のオタ・ノシケ(砂丘の中央)から命名されたこの地には、明治44(1911)年に「大楽毛家畜市場(大楽毛馬市)」が駅前に開設され、特に年に3回開催される定期市は全国から馬商や馬主、見物人などが集まり大盛況であったという。

今は何でもない国道沿いの町だが、その中で心惹かれたのは駅に併設されている「かもめ食堂」だ。北海道を舞台にした映画に出てきそうな懐かしい感じの味のある店内で、ホルモンなどの焼肉を提供している。畜産で発展した歴史に思いを馳せながら、今回は時間が無かったので豚丼をささっと注文して食べた。

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駅前から阿寒湖行のバスに乗ると、しばらくは農業地帯だが、途中からは深くて濃い森の中を通っていく。段々と日が沈み外は暗くなるにつれて心細さも出てくる。阿寒湖は湖畔こそ開発されているが、その周りには広大な原生林が広がっていて神秘的なところがある。

さてバスターミナルに着いてから、Seicomartで野菜を調達して担々麵の夕食にした。阿寒湖畔のキャンプ場にテントを張ったが、足湯があってとても快適なサイトだった。ビールを飲んでからほろ酔い気分で寝た。今日も良い夜だ。

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7月24日

阿寒湖畔の登山口から長い林道歩き。途中から小雨が降り始める。

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稜線に出ると霧の切れ間から阿寒湖が見えた。天気は回復基調だが、風は強く山頂付近は霧に包まれていた。雌阿寒岳山頂には一面霧の視界ゼロの中到着したが、急ぐ行程でもないので山頂でゆっくり水を飲みながら待った。山頂には10分おきほどに登山客が到着した。楽しく会話を交わしながら待っていたが、一人、また一人と霧が晴れるのを諦めて下山していった。

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1時間ほど待ったところで、霧が一気に晴れた。綿状の雲に囲まれるようにして巨大な火山口がドーンと姿を現した。火口壁からはシューッ.....という音と共に蒸気が噴出しており、底には赤い水が溜まっている。そして火口壁の絶壁には、そこに巣を構えているのかイワツバメが沢山飛び交う。

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火口の背後には阿寒富士も顔を出し、大迫力の景色になった。

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阿寒富士と青沼。

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阿寒湖方面の展望。展望を十分に楽しんでから下山を開始した。

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阿寒摩周国立公園には広大な手つかずの森林が残されている。雌阿寒岳から野中温泉、オンネトー方面に下山する時、目の前に展開する森林の広がりには圧倒される。山があるところに緑があるのは珍しくないが、いわゆる原野にここまでの面的広がりを持つ森林が見られるのは、日本では北海道をおいて他にはないだろう。

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メアカンフスマ 雌阿寒衾 Arenaria merckioides

雌阿寒岳森林限界上の植生は主にコマクサ、メアカンキンバイ、イワブクロ、メアカンフスマから成っていた。メアカンフスマは大雪山系では見られなかったが、その名の通り雌阿寒岳には多く分布しており、知床にも多いのだそうだ。

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雌阿寒岳からオンネトーに下山する。アカエゾマツやトドマツを主体とする原生林に囲まれ、雌阿寒岳と阿寒富士を借景として神秘的な色合いの水を湛えているオンネトーは北海道に数ある湖の中でも最も綺麗だと思う。

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アカエゾマツ 赤蝦夷松 Picea glehnii

トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツを主体とする北海道の針葉樹の中で、アカエゾマツは比較的土壌の貧弱な場所(火山灰礫地など)に生えるという。

宿泊はオンネトー国設野営場。湖畔にあるのだが、湖岸に幕営できるわけではなく、林間や草地にテントを張ることになる。湖が見渡せるわけでもないので思っていたほどロケーションの良いキャンプではなく、やはり個人的には山の上の幕営地が一番だろうか。平地にテントを張ることで唯一良いのは朝の結露がほとんどないことと、ゴミがすぐに捨てられることくらいだ。

7月25日

10時に始める野中温泉日帰り入浴の一番風呂に入るべく、荷物をまとめてオンネトー国設野営場を出発する。

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野中温泉までは坂道を歩いて1時間ほどだ。ちょうどお湯が入ったようだったので、早速入浴。

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木の引き戸をガラガラガラと明けると、総トドマツ造りの内湯は薄く濁った温泉がこんこんと湯舟に注がれている。中は蒸気の中に硫黄臭と石油臭が立ち込めており、秘湯の雰囲気抜群だ。内湯の湯温はとても高いので、適宜外の露天風呂に出て体を冷まし、また内湯に入り...といったことを繰り返す。良いお湯を満喫してから休憩室でスポーツドリンクを飲むと気持ち良い。いよいよ夏がやってきたなぁという気持ちになる。

野中温泉からは公共交通機関がないので、国道241号線との合流点まで歩いてからヒッチハイクを敢行する。30分ほど待っただろうか、埼玉から旅行に来ているという心優しい夫婦に乗せてもらった。久しぶりに人と話をした気がする。下記は備忘録として。

  • 夏の北海道が好きで6回ほど来ていて、今回は出張で来ているついでに旅行している。
  • 旅行する時は奥さんが道を調べて、その通りに運転するのだが北海道はたまに案内される道がダートの道であったりすることもあり油断ができない。
  • ゴルフが趣味だが、奥さんはゴルフがそれほど好きではない。とはいえ主人がゴルフをしている間の時間は別途観光をしたりしてそれぞれが楽しむから良い。そんなスタイルでこれまでかれこれ47都道府県を制覇した。

松山千春の故郷、足寄の町の道の駅でおろしてもらい、御礼を言って別れた。

今回の山旅は湖畔のキャンプ場に2泊し、山と森と湖を歩き山間の温泉に入り、そしてヒッチハイクで出会いもあり、とても思い出深い旅になった。学生時代の自由を思い出させてくれた北海道の土地と自然と、そして出会った人たちに感謝。