台湾第二の高峰雪山(3886M)に西南稜から単独で登った記録。
雪山の登頂ルートは、一般的には雪山東峰・ニイタカトドマツの黒森林・雪山1号カールを経由して山頂に達する東面の登山道が使われる。
今回は油婆蘭山・完美谷の大草原及びニイタカビャクシンの原生林の広がる翠池一帯を経由する西南稜から登頂した。
這是我10月末走過的雪山西南稜獨攀記錄,很高興能夠重新發現光復之後可能被日本人淡忘的雪山山脈之美。這次也得到了很多臺灣人的幫助,非常感謝台大登山社的朋友們和在山上遇到的山友們。
概念図:鹿野忠雄(1934) 臺灣次高山彙に於ける氷河地形研究(第1報) 地理学評論10:607 (※)論文はJstageのオープンアクセスで参照可能
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10月26日
礁溪~宜蘭~松茂林道ー推論池ー油婆蘭營地▲1
前日、礁溪の友人の家に寄せてもらった。自分は翌朝7時前の列車に乗らないといけないし友人も翌日仕事があるのに、話が弾んで結局深夜3時頃までずっと話していた。台湾で山や旅の話ができることが嬉しかった。そして底なしに明るい彼女の性格に惹かれた。
前一天,我住在了礁溪的朋友家。隔一天我們都要早起,我要搭7點的火車,她也要上班。可是,我們不知不覺聊天聊到了半夜3點。爬山第一天的行程又長又陡,如果睡眠不足的話會很累。不過,因爲當時真的很開心,所以我認真地想,不管隔一天會怎樣,想珍惜跟她聊天的那快樂時光。也許,我被她陽光般的性格吸引了。
後來,她成爲了我人生中的第一個女朋友。
宜蘭から再び梨山行きのバスに乗り、11時前に登山口へと続く松茂林道入り口に着いた。重いザックを背負い、深呼吸をしてから林道を歩き始める。
捨不得離開,不過也要去爬山。跟南湖的時候一樣從宜蘭搭開往梨山的客運,11點才到了松茂林道入口。背起重裝,深呼吸,往登山口出發。
道端は生き物の影が濃い。足元では一歩歩く毎に数匹のバッタが跳ね、眼前には紫、赤、青など色とりどりの蝶がヒラヒラ舞っている。ズルズルという地を這う音がすると思ったら深緑色の蛇が草叢に逃げていくところだった。そして周りの森では「キーッ」と奇妙な虫の声が響いている。
林道路旁有很多生物,包括跳來跳去的蝗蟲,色彩繽紛的蝴蝶及逃到草叢的蛇。
それにしても10月末の標高1500mだというのにまるで真夏のような暑さだ。全身汗だくになりながらただ無心で登山口まで歩を進める。
10月末的海拔1500公尺,如果是在日本的話會很冷,一颳了風就會超級想go home。在這裡卻像盛夏一樣熱,走了一小段路就滿身大汗。
登山口でゆっくり休憩していると、虎頭蜂が辺りを旋回しはじめたので逃げるように出発した。
在登山口休息的時候,可怕的虎頭蜂出現了。我只好趕著出發。
登路は防火帯になっていて、直射日光が容赦なく降り注ぎ体力を奪う。その上登山靴の履き心地が異様に硬い。今日朝登山靴に履き替える時、何故か右足の中敷が見つからなかった。どうしようもないのでそのまま出てきたが、違和感を隠すことができない。
沿著登山路徑是防火巷,森林被砍掉,免不了受陽光直射而多耗體力。而且登山鞋太硬又太鬆,走起來很不舒服。說實話今早出門的時候發現不知道爲什麽我的鞋墊不見了。我覺得這。真傷腦筋,卻沒時間重新去買,只好這樣出發了。畢竟好不容易得到入園許可,天氣也這麽好,所以不可錯過這個機會。
睡眠不足、重い装備、履き心地の悪い靴と色んな要素が複合して消耗が激しい。しかし立ち止まって休憩すると、往々にして虎頭峰が出現して警戒飛行を開始するので安心ならない。一度目の前でしつこくホバリングしているその姿を目にして、巨大さに思わず背筋を冷やした。こんな奴に刺されたらひとたまりもない。頭を刺されたことのある友人が「頭に釘を打ち込まれているような痛さ」と言っていたのを思い出した。
果然走著走著還是覺得跟平時不一樣,應該是因爲背著太重而且睡眠也不足,偶爾要停下來調勻呼吸。不過停下來的時候會有虎頭蜂出現,警告說這是牠們的地方,要是不趕快離開就會攻擊。有一次遇到超大虎頭蜂在我眼前一米的地方盤旋。記得朋友跟我講過,如果被叮了就會像在身體上被打釘一樣痛。我此時才體會到了一個人去登山的風險。
冇骨消 Sambucus chinensis タイワンソクズ
九州南部から沖縄、小笠原、台湾に分布。夏に白い花を咲かせ、蜜を蓄える黄色い腺体を持つことが特徴である。今の季節は赤い果実が綺麗。
灰葉蕕 Caryopteris incana タンギク
17時前、推論池にたどり着き更に歩を進める。夜の静寂の中、自分の呼吸音と足音のみがリズム良く響く。標高が上がり、日が落ち、辺りはすっかり涼しくなった。
大概5點抵達推論池,繼續往油婆蘭營地走。
沒多久就天黑了。天氣十分穩定,四周一片寧靜,只聽得見自己的呼吸和腳步聲。不知不覺中海拔已高,涼爽得多了。
標高3100mあたりで森林限界を超えると一気に視界が広がった。振り返ると眼下には満月の月明かりに照らされた雲海が波のようにうねっている。その上には屏風のように聳える中央山脈の峰々だ。
在海拔3100公尺附近過了森林界限之後,突然間視野變得很開闊。回首看去,對面是高聳入雲的中央山脈。月光把雲海染成銀白色,群山沉在其中,暗藍色地沉睡。
ヘッドライトの明かりを消した。月明かりの中、ゆっくりと主稜線まで登りつめた。
我發現,在明亮的月光中沒有需要開頭燈。我把頭燈關掉,頻頻回首看著那言語無法描述的美景,慢慢地走了上去。
雲海の上に南湖大山と中央尖山の山頂が顔を出している。
南湖大山和中央尖山的山頂高聳入雲地挺立。
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10月27日
▲1ー大剣山ー完美谷ー翠池三叉山ー翠池山荘▲2
清々しい朝だ。テントから出て大きく息を吸った。快晴無風の中、中央山脈から昇る朝日を迎える。空が綺麗なグラデーションを描いている。
黎明,從帳篷裏出來,吸著無比清爽的空氣看了從中央山脈升起的旭日。
南湖大山(3742M),中央尖山(3705M)、甘薯峰(3158M),無明山(3451M),鈴明山(3272M),畢綠山(3371M)
太魯閣大山(3283M),屏風山(3250M),奇萊連峰,合歡群峰
写真中央部が奇萊連峰,合歡群峰。機会を探してのんびりとした山行を楽しんでみたい場所である。特に花が咲き誇る春から初夏にかけて。
大劍山(3594M)を望む。大剣山の山名は日本統治時代、その峻険な山容が北アルプスの剣岳を彷彿させることから‘名づけられたものである。現地タイヤル族による呼称はBabo Battowanomin という。
大劍山之名是日治時期以此山嶙骨傲立,險峻的山勢與日本北阿爾卑斯劍岳相似,因而得名。泰雅語稱爲Babo Battowanomin。
劍南尖山(3285M)
手前は左から布伕奇寒山(3295M),佳陽山(3314M),劍山(3253M)。背後の高峰は白姑大山(3341M)。
佳陽山の南東側は粘板岩の絶壁となっており、遠くからでもよく目立つ。山頂付近には以前三角点が設置されていたが、921大地震(1999年)の際に山崩れによって崩落したそうである。台湾も日本と同様地震の多い土地である。
佳陽山的三角點因九二一大地震而已崩落。臺灣也跟日本一樣是頻繁面臨地震威脅的島嶼。聽説九二一大地震的時候日本對臺灣提供了不少援助。反過來,前幾年三一一大地震的時候,臺灣人捐給我們很多錢,把很多救援物資送到受災地區,也迅速地派了救難團體。我們當時很感謝且感動。希望以後也能夠互相幫助。
臺灣龍膽 Gentiana davidii var. formosana
息を切らしてようやく大剣山山頂に到着する。雪山はまだ遥か向こうにある。
氣喘吁吁地抵達大劍山,前方的雪山還是很遙遠。
山頂は360度の展望がある。
大剣山から先の道は樹林帯に入り、途端に不明瞭になる。稜線上が潅木で遮られ登山道が見つからなくなった。仕方が無いので最後に道標を見た場所まで戻ることにする。
過了大劍山之後,路突然變得不明顯。雖然我沿著稜線走,不知爲什麽被灌木擋住,看不到登山路了。我只好回到最後看到路標的地方,可是還是找不到對的路。
それでもやっぱり正しい道は見つからない。今度は植生が薄そうな北側の谷から迂回するルートを偵察に行く。しばらく歩くと谷間の遠く下方の木に黄色い道標が垂れているのが見えた。道標が見つかって一安心し、その木に向かって進む。途中シャクナゲやハイマツに遮られるが、とにかく道標までたどり着けば良いと思って無理矢理進んでいく。
北面的山谷看起來植被也沒那麽多,覺得繞過去應該比較好走。所幸走一會兒之後,在山谷下邊的樹木上看到了黃色路標。我很開心地往那顆樹走。雖然那棵樹有點遠,加上中途有很多刺柏和杜鵑的阻礙,可是我想只要走到有路標的地方就對。
そして、ようやく目標の場所にたどり着いた時、眼前の光景に愕然とした。よく見ると道標に見えたものは、実は剥がれた樹皮がぶら下がっているだけのものだった。
不過,好不容易走到那棵樹的時候,我黯然失色。我以爲是路標的東西原來只不過是被剝掉的樹皮。
「マジか・・・。」と一人つぶやいた。徒労感と失望、そして少しの焦りを隠し得ない。
我蠻失望,禁不住感到一點焦慮。
とりあえず腰を下ろす。辺りを見渡すと生命力に満ちた森の緑と青い空、白い雲が眩しい。とにかく今の状況は一旦忘れてチョコレートを食べ、水を飲み一服する。
雖然現在的情況並不是理想,可是先不用想太多了。我吃著巧克力,喝著水,轉眼看看周圍的風景。翠綠的森林和藍天白雲充滿著生命力。
休憩しながら考える。もう一度さっきの最後の道標があった場所に戻ったとして、またかなり時間を取られるのは間違いない。そして必ずしも正確な道を発見できるとも限らない。時間に余裕はあまりない以上、斜面を無理矢理横切って、先の鞍部もしくは稜線上で登山道に合流するのが一番良いように思えた。とにかく自分の現在地は明確に把握しているし行く先の稜線も見えているのだから。
我一邊休息一邊想,就算回到剛剛那個有路標的地方也不一定能找到對的路,而且又耗時閒又耗力。要不然可以直接橫渡,可以往下一個按部或者中途的稜綫走上去之後再找路。我現在對自己的位置很清楚,橫渡除了不太好走之外應該沒有很大的問題。
意を決して歩き始める。ハイマツは痛いだけでまだ良いとして、問題は石楠花だ。石楠花の海に首まではまってしまうと容易に抜け出すことはできない。四方八方に伸びる枝の中に埋まり、ザックが引っかかり、そのたびに悪態を付く。そして、生命力に満ちたこの広大で美しい山の中にいながら、価値判断基準が「進みやすいか進みにくいか」のみに成り下がっている自分をこの上なく醜いものに感じた。
我下定了決心出發。出發之前,看跟她拍的那張合照來鼓勵了自己。路上有很多阻礙,刺柏不斷地刺到我的皮膚。最煩的是杜鵑,它樹枝不夠硬所以很難踩著過去。我很多時候埋在通向四面八方的樹枝裏,背包也頻繁被卡住,一動也不能動。我一個人埋怨的同時覺得抱歉。我申請入園的時候不是說"行走維持步道内,不任意攀折花木"嗎?而且,在身處這個大自然裏,“好走還是不好走”卻成爲了唯一在意的事情。這不是很醜惡嗎。
ようやく3494m峰先の稜線にたどり着いて登山道に合流した時、既に大剣山の山頂から2時間半が経過していた。
終於到3494小山頭后的稜線時,從大劍山已過了2個半小時。時間好像很趕的樣子。
少し急ぎ気味に歩く。やがて完美谷の鞍部が見えてくる。
快到完美谷了。
完美谷はその名前の通りとても綺麗な場所だ。心地良い風が吹き抜ける。
完美谷名副其實是很美的地方,吹來的風也很舒服。
ビャクシンの佇まいが好きだ。ある時は岩に張り付き
我個人很喜歡圓柏的風貌。有時就是這樣在岩稜上匍匐貼地
またある時は気品を持って天高く聳える。
也有時高大挺拔,看上去很高尚。
道は相変わらず不明瞭だ。
登山道一路都很不明顯。
道が見当たらないので、歩きやすい岩礫地を経由して翠池三叉山に直接詰めあげる。
因爲看不到路標,所以經過看起來比較好走的碎石坡直接爬上翠池三叉山去。
登りきると断崖絶壁の上に出た。高度感に思わず息を飲んだ。
爬到盡頭,就到了峭壁上。
翠池三叉山から雪山主峰と北稜角を望む。闇が刻一刻と迫っている。幕営地まではまだ1,2時間の距離がある。
在翠池三叉山的峭壁上,往北遠看雪山的巍峨山容被夕陽染成紅色。快要天黑了,這裡離翠池營地還有一段距離,剩下的水也不多,不禁焦慮起來。不過,這宏偉場景在眼前,我感動得幾乎忘記了接著要面對的困難。
闇が落ちる。道は見つからないので暗闇の中ひたすら灌木の藪を漕ぐ。困難な道のりが続くが、途中から地形は平坦になり、ニイタカビャクシンの原生林に入ると大分楽になった。林床はフカフカの苔で覆われていて障害物はない。
天黑了。三叉山之後又找不到路,所以在黑暗中又不得不痛苦地推開刺柏叢。不過,進入了玉山圓柏的森林之後,困難的路突然變得很輕鬆。
やがて月が出た。今晩も快晴無風だ。月光がニイタカビャクシンの樹冠を通して降り注ぎ、森は静寂に満ちている。一刻も早く幕営地に着いて飯を食べたいけれど、同時に永遠に一人ここで歩き続けたいような気もした。
在圓柏森林裏,地上只有鬆軟的綠苔,沒有任何的障礙。高大挺拔的黑暗森林漸漸地被銀白月光照亮。
我發現肚子很餓,想趕快到營地吃飯。不過同時也想永遠留在這完美的世界裏。
終於到了翠池營地。大口喝水。
一日中人の影を見なかったが、山荘に着いてようやく登山者に会った。僕が日本から来たと知って食事を振る舞ってくれた。
「余ってるから。冷めないうちにどうぞ。」
腹が満たされて瞬時に眠気が襲ってきた。お礼を言い、テントに帰って寝た。頭の中で「かまどの歌」がこだましていた。
「長い一日だった、本当に辛かった。だけどこうしていると今じゃ嘘みたいだ。」
一整天都沒看到人,在山莊才遇到了山友。他們知道了我來自日本,熱心的招呼我吃飯。
“反正剩下的了,趕快趁熱吃。”
比起平時我做的菜豐盛許多。有豬肉,魚丸,杏鮑菇。今天的辛苦瞬間有被慰勞的感覺,感到很幸福。只是隔天也要背著很多剩下的食物走。
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10月28日
▲2ー雪山―黒森林ー369山荘ー登山口
しばらくゴロゴロしてから起き上がると辺りはすっかり明るい。
賴床了一陣子之後才起來,天都亮了。在帳篷上的霜也都融化了。
翠池については日本統治時代に鹿野忠雄が詳細なレポートを残している。
何と朝ごはんまでご馳走になってしまった。
居然昨天的他們還幫我準備早餐。木瓜粥太好吃了。
出發前合照。
徐々に高度を上げ
慢慢地陡上
北稜角と雪山の鞍部から雪山一号カールを見下ろす。
從北稜角和雪山的鞍部往看雪山一號圈谷。
そして雪山主峰に辿り着いた。
ある台湾の登山者が「君は現代の鹿野忠雄だね。」と言ってくれた。
在雪山山頂,有人說我是現代的鹿野忠雄。我覺得很不好意思,鹿野忠雄是在臺灣最受尊敬的日籍學者之一。從昆蟲學,地理學到文學,民俗學都有很大的成就,重點是那些成就是他大概在我這個年齡的時候已實現的。現在的我卻只不過是一個漂泊浪子。希望有一天,我做的一切也被會別人認爲有意義。
鹿野忠雄は台湾で最も尊敬されている日本の学者の一人だろう。原住民の言葉を駆使して台湾の山を縦横無尽に歩き回り、昆虫学、地理学、文学、民俗学などに多彩な功績を残した。そしてそれも10代後半から30代前半のうちに。
自分は学問では全く及ばないけれど、同じように後世に何かを残すことができれば良いなぁと漠然と思った。
山頂を離れ、急いで下山する。
趕著下山。
台灣冷杉 Abies kawakamii ニイタカトドマツ
雪山の東側,標高3300m付近には「黒森林」と呼ばれるニイタカトドマツの大規模な森林が見られる。ニイタカトドマツの種子は風によって散布されるが、通常母樹の樹高の半分を半径とする円内で発芽生長する。結果、黒森林のようなまとまった規模の純林が形成される。
在雪山東邊海拔大概3300公尺的地方有臺灣冷杉的大規模純林,稱爲黑森林。冷杉的種子由風力傳播,通常在以母樹樹高為半徑的範圍内發芽生長。這種策略讓冷杉集結成一大片一大片森林。
下山した。緊急連絡先、友人などに下山連絡を入れる。明るい声で下山連絡を入れられるのが何よりの幸せ。
下山了。最幸福的是這次也能夠順利完成行程,向緊急聯絡人和朋友高興地說 : “我下山了。”
登山口から羅東まで乗せてくれた親切な夫婦。
在登山口遇到了好心的夫婦,載我到了羅東。
羅東に着いたら肉羹を食べに連れて行ってくれた。山から帰ってくると新鮮な肉が異様に美味しく感じられる。どうもありがとうございました!
在羅東,他們還帶我去吃肉羹。在山上吃不到的新鮮的肉吃起來很過癮。謝謝!
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