休学中の記録

息子が歩けるようになった日のこと

息子はハイハイが好きで、長い間、家中や公園中を這いずり回って遊ぶ期間が続きました。私はそんな息子と一緒に床や地面に這いつくばり、時には追いかけっこをし、時にはかくれんぼをして遊びました。

私に追いかけられて喜ぶ息子の笑い声が、家中に響きわたるのは何よりの幸せでした。

ただ活発に運動はしていたものの、1歳4ヶ月に近づこうとしても歩かないのは、親の心情としては少し不安でした。

そんな4月下旬のある日、息子がはじめての一歩を踏み出しました。自分で立ち上がったあと、妻のもとへ移動しようという気持ちから一歩目が出て、それをしっかり自分の足で支え、また二歩、三歩と前に進みました。

はじめて息子が歩いた姿を見て興奮した妻は、隣の部屋にいた私を大声で呼びました。

「走了!走了!さーちゃん!走了!」

私は妻からは「さーちゃん」と呼ばれていて、「走了!」というのは「歩いたよ!」という意味なのですが、つまり息子が歩き始めたその瞬間の興奮を、父親である私と共有してくれたのでした。

私は息子が歩き始めた瞬間は見られなかったので、嬉しく思う一方で妻ほどの興奮はありませんでした。ただ、息子が歩き始めたその瞬間を、妻が直感的に私と真っ先に共有したいと思ってくれたことを、何より嬉しく思いました。

さて、そんなはじめての一歩があってから、公園で何度か歩く練習を重ねました。五歩ほどしか歩けなかったのがやがて十歩、二十歩と増えていきました。私は息子がよちよちと歩く姿をカメラに収めながら、なぜか少し涙が出そうになりました。

やがて2~3週間もすると、息子は家の中を自由自在によちよち歩き回れるようになりました。

いつしかハイハイはほとんど卒業しました。今では車のおもちゃで遊ぶ時だけハイハイが復活しますが、またすぐに立ち上がって歩き始めます。

自分でめいっぱいに背伸びをして、ドアノブのレバーを下げて部屋を出入りしたり、蛇口の開け閉めができるようになったり、色んな動作が自分でできるようになってきました。

思えばまだハイハイしかできない頃、息子は本棚から気になった本を取り出し、一生懸命片手で持ちながらハイハイで私のもとに持ってきてくれていたものでした。そして本を私に手渡したあとには、私の膝の上に自ら「ちょこん」と座りにきていました。その様子はとてもかわいくて、いつも癒されていました。

ところが今では両手が自由になって、重たい図鑑でも何の苦労もなく私のもとに持ってこれるようになりました。膝の上に座らせようとしてもすぐに体をくねらせて自分で立ち上がり、また楽しそうに歩きはじめます。

そんな様子を見るたびに、成長が嬉しく、微笑ましく感じる一方で、「そうか、ハイハイはもう卒業したんだな」と、「ハイハイで追いかけっこをした日々は期間限定で、あの時間はもう戻ってこないんだな」と、少し感傷的な気分になります。

そして、子育てというのは、子どもの成長と同時にさまざまな段階を卒業していくことの繰り返しなんだな、ということに改めて気づかされます。

子育てにおけるそれぞれの段階は一度きりしかやってこない、期間限定のものだということに気づくと、なお一層、今、この時間を大事にしたいと思います。