休学中の記録

南湖大山単独行(南湖大山獨攀)

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台湾中央山脈の南湖大山(3742M)と周辺の峰々を単独で登った記録。南湖大山は山頂直下に美しい上圏谷・下圏谷の氷食地形を持ち、「帝王之山」の異名を持つ台湾第8の高峰である。

地図収集を手伝ってくれて緊急連絡先にもなってくれた陳さん、計画のアドバイスから申請手続きに到るまで全面的にサポートしてくれた游さん、そして山上で優しくしてくれた台湾の全ての登山者に心からの感謝を。

南湖大山是我來台灣之後夢寐以求想爬的一座山。雖然當初9月末的計劃被超強颱風吹了,在10月國慶連假終于得到了機會去爬這座 “帝王之山” 。

衷心感謝不但幫我複印地圖還為我當緊急聯絡的陳さん、從計劃階段到申請入園・入山証再到準備裝備一直都給我提供無微不至幫助的游さん,以及在山上特別和善地對我的臺灣登山客們。

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南湖大山の概念図(画像来源:千々岩助太郎(1936) , 南湖大山, 臺灣の山林 123 p176) 國立臺灣圖書館所蔵資料

  • 10月7日

花蓮~宜蘭~思源登山口ー多加屯山ー雲稜山荘▲1

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東部の街宜蘭からバスに乗り、蘭陽渓に沿って山間部へと入っていく。蘭陽渓の河床は夥しい堆積物で埋め尽くされており、上流の浸食作用が如何に凄まじいかを物語っている。しばらく走ると辺りは霧で覆われ、何も見えなくなってしまった。

從宜蘭搭客運沿著中橫公路走進山區,從車窗看到的蘭陽溪廣闊的河床幾乎全都是沙土,可見上游的侵蝕作用多麽的巨烈。走了不久雲氣彌漫,幾乎什麽都看不見了。

しばらくバスに乗っていると、乗客の女性が「山に行くんですか?」と話しかけてきた。梨山賓館の人だった。

「私の電話番号を教えておくから、何かあった時は連絡してね。」

「ありがとうございます。でも、台北の友人が緊急連絡先になっているので大丈夫です。」

「そうは言っても梨山の方が南湖大山に近いし、派出所の人とも知り合いだから何かあった時にスムーズに対応できると思う。」

「わかりました。ありがとうございます!」

「そういえば登山口はバス停から少し離れたところにあるから、運転手さんに登山口で降ろしてもらえるよう言っておくね。」

乘客的一位大姐問我說 “你是去登山嗎?”

因爲她說她有來自北海道的同事,我就知道她在梨山賓館工作。

“我把電話號碼留給你,有事就給我打過來吧”

“謝謝!不過我在臺北有一位朋友當緊急聯絡,所以你不用擔心了!”

“可是梨山離南湖大山比較近,而且我們在派出所有熟人,有問題時比較方便聯絡,所以還是記下!”

”嗯!我懂了!謝謝!!”

”對了,從公車站到登山口有一段距離,我幫你請司機在登山口停車吧!”

日本人女性、「台湾でのホテル勤務経験は一生の思い出」 | 観光 | 中央社フォーカス台湾

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バスはタイヤル族の南山部落(日本統治時代名:ピヤナン社)でトイレ休憩をとった。鹿野忠雄が氷河地形調査の為に1930年代に南湖大山に登った時はここの部落の蕃人(現在は台湾原住民族という呼称になっている)を道案内に連れて登った。というのも南湖大山の一帯の山がピヤナン社の狩猟領域となっており、その領域に入る際にピヤナン社以外の蕃社(部落のことをを当時このように呼んだ)から人を雇うわけにはいかなかったからである。当時の記録は鹿野忠雄の「ピヤナン越えの山旅」、田中薫の「臺灣の山と蕃人」などに詳しく記載されている。当時は現在の登山道はなかったから、南山部落向かい側の渓谷を遡行して尾根に取りつき、登攀していったのである。

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バスが登山口の思源に着く直前、突如霧が晴れて一面の青空が広がった。

「こういうことは良くあるのよ。台中側は晴れているみたいね。良かったね!それじゃ気をつけてね!」

バスを降りる僕を、先ほどの女性が笑顔で大きく手を振って見送ってくれた。

親切を受けて涙が出そうになるのを感じながら、歩き始めた。台湾に着いたばかりの時は本当に一人だった。それがいつの間にか周りの沢山の人に支えてもらっている。だから本来「単独行」という言葉は半分正しく、そして半分は正しくない。

公車快要抵達思源等山口的時候,濃霧突然全都散去,在一霎那滿天都變成了藍色。

她告訴我說,“這個地方常常有這種現象,台中邊天氣不錯呢。太好了!一路平安!!”

她揮了揮手送我。

我下了公車,因受到了好意而感動得差點流出眼淚,覺著溫暖起步。

回想起來,一個月前我剛來臺灣的時候,對這裡完全陌生,沒有一位認識的臺灣人。跟孤孤單單的當時比起來,現在的我多麽的幸福啊。現在在臺灣有不少人關心甚至支持我。雖然這次是單身去的爬山,實際上我並不是一個人。

(※)台湾の山の気象について

這是很值得參考的一篇文章。内容完全符合我這次體驗過的天氣。

台湾は決して大きな島ではないが、それぞれの山脈の規模が大きいため気候帯は大きく分かれる。上の文章によると大まかに分けて5つの気候帯があるようだが、今回の登山口の思源はちょうど境界線上に位置している。登山口の直前で俄かに青空になったのは、雪山山脈によって霧が遮られるからである。境界となっているこの場所は蘭陽渓と大甲渓の分水嶺となっており、日本統治時代にはピヤナン鞍部と呼ばれていた。

一般的に台湾は10月から12月の降水量が一番少なく、高山縦走に適するという認識がある。しかし、中秋節以降に東北季節風の影響を受ける東部に関しては真逆であるということは覚えておいた方が良い。

僕は今回の山行でそのことを身を持って体験することになる。

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虎杖 Polygonum cuspidatum イタドリ

北海道西部以南の日本、台湾、朝鮮半島に分布。繁殖力が旺盛であり、イギリスをはじめとする欧州や北米、ニュージーランドでは侵略的外来種として悪名高い。利用法は幅広く、若い茎を山菜として食用にしたり、根茎を乾燥させたものを薬用にしたりする。

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矮菊 Myriactis humilis ミヤオギク

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玉山假沙梨  Photinia niitakayamensis ニイタカカマツカ

開けた草地などに好んで生長する常緑樹。5~6月に白い花が密生して咲き、10~11月に赤い実をつける。

10時に歩き始め、16時に雲稜山荘に着いた。本来僕は申請の段階でテントを張ることになっているので小屋に泊まることはできない。けれども、台湾の登山者達が場所を空けてくれた。

上午10點從登山口出發,下午4點到了雲稜山莊。雖然我本來在申請的時候沒有被分配到山莊的床位,而且山莊裏已經擠滿了山友,可是他們一知道我是來自日本的登山客就為我挪開了空間。我感謝不盡。

「どこでも好きなところに寝てくれて良いですよ。何か困ったことがあれば言ってくださいね。」

“哪裏都可以睡覺,如果有什麽問題就問我們吧!”

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一日目の夜は水蓮菜、厚揚げ、しいたけの煮物。干ししいたけは今山行で最も重宝した食材の一つだ。

食後ラジオを聞いていると話題が「日本と台湾の交流」になり、「最近は日本に旅行する台湾人が多いが、一度行ってもまた行きたいという人が多いんだ」と言ってくれていた。そして番組の最後に「ビリーヴ」が流れた。

吃晚飯之後收聽了某一個廣播電臺。恰巧廣播裏的話題轉到臺灣和日本的交流說;“最近很多臺灣人去日本旅行,常常去一趟回來之后也還再想去”。 節目最後播放了一個我非常喜歡的日語歌曲 “Believe” ,也就是我小時候特別愛看的動物節目的ED。

生きもの地球紀行。小さい頃に一生懸命見ていたのを良く覚えている。エンディングテーマが「ビリーヴ」だった。

  • 10月8日

▲1-審馬陣山ー南湖北山ー南湖山荘▲2

朝食はピータン水蓮菜辛ラーメンピータンは保存性が高く、固化していて割れる危険もないので蛋白源にと思って持って行った。しかしピータンの食べすぎは健康に悪いらしいので、これからは咸鴨蛋(塩漬けのアヒルの卵)を持っていくのが良いかもしれない。

今天的早餐是皮蛋水蓮菜辛辣面。因爲皮蛋可以長期保存,而且因爲已凝固而不容易擠破,所以在山上是好用的一個蛋白質來源。不過有人說,過於吃皮蛋對人體健康不好,所以我在想著下次要不要用咸鴨蛋來替代。

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小屋の外からは中央尖山(3705M)のシルエットが綺麗に眺められる。出発前、近くのおじさんが「今から下山するところだけど余ってしまったから。」と言って、鳳梨酥(パイナップルケーキ)とコーヒーをくれた。また親切を受けてしまった。

早上從山莊看去,中央尖山的輪廓很帥。出發之前有好心的叔叔給我帶鳳梨酥和咖啡。

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台灣冷杉 Abies kawakamii ニイタカトドマツ

主に標高2800~3300mに生長する。台湾高山の樹林は高い方からニイタカビャクシン→ニイタカトドマツ→タイワンツガ→ニイタカトウヒの順番で分布する。

綺麗な鱗雲だが、天候がこれから変化するであろうことを暗に示している。予報ではずっと天気が悪いようだから今日まで持てば良いところだろう。

我們日本人把這種卷積雲叫做鱗雲,是因爲雲彩的白斑紋在藍天裏很像魚鱗。雖然看上去好漂亮,可這就是不久天氣會惡化的徵兆。

やがて審馬陣山に着く。この山は、タイヤル族によってシンバジンと呼ばれていた。台湾の地名を考察するのは非常に興味深いことである。台湾山岳地帯の地名の多くは日本統治時代当時、原住民の発音を片仮名化して表記していた。それが、戦後国民政府がやってくるにあたって表記を全て漢字化する必要が出てきたので「シンバジン」の音を日本語読みにしたがって漢字に返還して「審馬陣」としたようだ。ちなみに漢字の読み方は中国語、日本語で随分異なっているので今の中国語読みの発音は拼音表記すると(shen3ma3zhen4)であり、「シンバジン」とはかなり離れたものになっている。

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審馬陣山(3141M)を過ぎると、気持ちの良い草原が広がる。腰を下ろし、おじさんの優しい顔を思い出しながら鳳梨酥を食べた。そして朝テルモスに入れてきた紅茶を飲んで一服した。

審馬陣草原視野相當寬闊。我在草原上坐下吃了鳳梨酥,此時想起來了那位叔叔溫和的面孔。因爲絕佳的展望使我捨不得匆匆忙忙地離開,再喝早上泡過帶上來的紅茶休息了一會。

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背後を振り返ると雪山(3886M)と大覇尖山(3505M)を結ぶ聖稜線が空高く聳えている。聖稜線は台湾の大キレットとでも言うべき岳人憧れのルートである。

回頭遠看,從雪山一直到大霸尖山的聖稜綫高聳入雲,真是令人嚮往去的地方。聖稜綫有可能相當於日本的從西穂高岳經過“大切戶”,奥穂高岳連接至槍ヶ岳的稜綫。它也差不多全都由峭壁構成,在傳統路綫當中屬於最危險的一類。

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左に南湖大山(3742M)、右に中央尖山(3705M)。

左邊為南湖大山,右邊為中央尖山。

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南湖北山(3536M)から南湖大山を眺める。

從南湖北山往南湖大山看去,主峰已經在烏雲中了。

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北東方の大濁水北渓に続く谷は断崖になっており、荒々しい岩肌が剥き出している。

東北方是可怕的絕壁,聽説有隊走過正面的稜綫。

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 玉山抱莖籟簫 Anaphalis morrisonicola ニイタカヤマハハコ

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一枝黄花 Solidago virgaurea var. leiocarpa ミヤマアキノキリンソウ

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玉山卷耳 Cerastium trigynum var.morrisonense ヤマカイミミナグサ

一般的に花季は6月から8月であるが、かろうじて残っていた。5枚の花びらに入った切れ込みが可憐でかわいらしい。

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黃菀 Senecio nemorensis L キオン

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南湖杜鵑  Rhododendron hyperythrum コニシシャクナゲ

台湾高山のシャクナゲは春の終わりから初夏にかけて花季を迎え、多くの登山者を引き付ける。

杜鵑有很種類,很難辨別出是哪一種。

シャクナゲには色んな種があるので、はっきりと見分けることは困難だ。

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玉山石竹 Dianthus pygmaeus ニイタカセチギク

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圏谷に下りてきた。

下到了圈谷。

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圏谷底には南湖小屋があり、すぐ側に渓流が流れている。水に困ることはない。この場所はタイヤル族の言葉で「ブナツケー」と呼ばれており、ピヤナン社の狩猟小屋が設けられていた。日本統治時代に南湖大山に登った登山者達もここに泊まっている。

天気は明らかに下り坂なので急いでテントを設営すると、案の定午後2時頃から雨が降ってきた。何もすることがないので寝て、起きて夕飯を作って食べて、また寝た。

南湖山莊旁邊有水量相當豐沛的溪流。去取水非常方便。

因爲怕快要下起雨來,趕著搭了帳篷。正如我想的一樣,兩點左右就開始下雨。我只好在帳篷裏閑著,睡午覺,做晚飯,再睡了覺。

  • 10月9日

▲2-東北峰偵察ー▲3=▲2

午前3時頃起きて外に出てみると、何と満天の星空だった。四方を3500m以上の山にぐるり囲まれた別天地の圏谷は、空を見上げて遠い宇宙に思いを馳せるのに適している。想定外の好天気に嬉しくなり、4時半にセットしていたアラームを4時15分にセットし直してもう一度寝た。

半夜睡醒的時候,居然滿天星斗閃爍。圈谷四周都是3500公尺以上的高聳岩峰,適合看著天空對遙遠宇宙的神秘神往。我原來把鬧鐘調到4點半,去遛遛回到帳篷裏之後再調到了4點15分。

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4時15分、素早く起床して豚骨ラーメンを作る。しかし、食べ終わって紅茶を沸かしているとポツポツと音がし始めた。「そんな馬鹿な」と外を見ると、いつの間にかさっきの星空とは打って変わって霧が立ち込め、雨が降っている。この様子だと今日はもう駄目だな、と失望して寝転がってラジオを聴いたり眠ったりした。

午前中を通して雨は断続的に降ったり止んだりしていて外に出る気になれない。しかし、流石に24時間テントのなかに引きこもるのは嫌なので10時半頃、東北峰(3557M)への偵察に行くことにした。

4點15分迅速地起了床,吃完豬骨拉麵收起東西的時候,突然聽到下雨的聲音。揭開帳門一看就知道天氣與半夜的截然不同。我感到一些失望,躺在了墊子上不知不覺再睡覺了。到了十點半才出去偵查去東北峰怎麽走。

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玉山圓柏 Juniperus squamata ニイタカビャクシン

標高3000m以上の台湾で最も高所に分布する樹木である。同じニイタカビャクシンでも、気候や土壌などの環境要因の違いによって樹形は大きく異なる。強い風や太陽放射の影響を受ける稜線上や森林限界上の斜面では地を這うように低くグネグネと生長する一方で、谷間や森林限界下では高木に生長することもある。例えば台湾第二の高峰雪山の翠池一帯のように風が弱く土壌の厚い平坦地では、樹高25~35mまで達する壮観なニイタカビャクシンの林を見ることができる。 

上圏谷へ入ると、強風の影響を受けて特異な樹形をしたニイタカビャクシンがにょきにょきと現れる。まるで皆でダンスでも踊っているようである。

上圈谷的玉山圓柏擺出跳舞般奇妙的造型,沒有一株長相雷同。

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上圏谷から支流に入り左岸の露岩帯を進んでいくと、五岩峰・北峰から続く断崖に出た。断崖のすぐ脇には台灣長鬃山羊(カモシカ)のものであろうと思われる糞が沢山見られる。あとは断崖に沿って東へ藪をしばらく漕げば東北峰山頂だ。けれども、こんな展望の悪い日に行っても仕方が無いし、ちょうどまた雨が降ってきたので登頂せず戻ることにした。

冷たい雨に打たれながらもと来た道を戻った。あー寒いなぁと思いながら、帰ったらカレーうどんを食べて温まろうと思った。

避開著草叢沿著支流左岸走,沒多久到了斷崖上。在斷崖上看到很多大便,好像是台灣長鬃山羊留下的。從這裡只要推開灌木叢往東走一會就能到東北峰,不過我覺得像在今天這樣的天氣中去爬也沒意思,加上再下起雨來了,所以從這裡下了山。

我在風雨中感覺一點寒意,覺得很想趕快回營地吃咖喱烏冬面取暖。

雨が強くなってきた。ひたすらカレーうどんカレーうどんカレーうどん・・・・と考えながら下山した。

雨下得越來越大,我在心裏一直想著咖喱烏冬面的事下山了。

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テントに帰ってきて火をつけると、濡れた雨具が暖められて蒸気がモワモワモワと立ち上ってくる。この瞬間がたまらなく好きだ。

回到帳篷起火煮菜,濕掉的雨衣變暖,散發裊裊的蒸汽,這是我在山上特別喜歡的時刻。

外の天気は悪化の一途を辿っているようだ。今日はこのまま停滞だな、と思ってラジオを聴いたり眠ったりを繰り返した。

ラジオの中波放送は、NHKは全く受信できず、中国人民解放軍「海峡之声」(666khz)、中国国営放送局「中央人民広播電台」の台湾向け放送(837khz)はかなりクリアに聞き取れる。大陸の影が海峡を越えて迫ってくるような感じがして、少し怖くなった。

外面的天氣根本沒有好轉的徵兆,我跟昨天一樣只好帳篷裏閑著。

收音機沒法收聽日本的NHK廣播電臺,而大陸的“中央人民廣播電臺”與中國人民解放軍的“海峽之聲”卻清晰地可以聽見。。。

  • 10月10日

▲3-東峰ー東北峰ー▲4=▲3

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今日の朝は昨日より少し寒い。風も少し強いようだ。けれども日の出前は視界も良く、南湖大山の山頂も望むことができた。

今天早上比昨天還冷一點,風也大得多,不過日出之前看得見了南湖主峰的山頂。

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霧に煙る圏谷の風景は幻想的だ。でも綺麗なのはほんの10分ほどの間で、一瞬のうちに全てが霧の中に隠れた。

雲霧造就出了夢幻般的風景,可是沒多久就沒視野了。

少し天気が落ち着くのを待ってから7時半頃出発した。一日が使えるのは残り2日間、とりあえず主だった山頂は今のうちに踏んでおいた方が良さそうだ。

今天也天氣不太好,不怎麽想出去。可是因爲剩下的時間已不多了,覺得不管天氣怎麽樣都要去爬。7點半往東峰出發。

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視界ゼロの中出発したが、思いもしなかったことに上圏谷に降り立った時俄かに太陽が現れた。

五里霧中出發,下到上圈谷時居然看到太陽了!

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久々の太陽に照らされて、今まで何も見えなかった上圏谷の風景が浮かびあがった。そして、ほんの短い間にまた霧の中に隠れた。

好久沒見的太陽終于露出了臉,一陣子照射出上圈谷的樹林之後,再被雲氣遮住了。

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時折晴れることはあるが基本的に視界は悪い。東峰に続く山稜は急であり少し怖さもある。

東峰的登路有一點可怕。

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玉山山蘿蔔 Scabiosa lacerifolia ニイタカマツムシソウ

地下の主根が長くて太く、形状が蘿蔔(大根)に似ていることから名づけられた。日当たりの良い岩場に生長する。

それにしてもこんな岩稜上に根性で張り付いているニイタカビャクシンには尊敬の念を抱かずにはいられない。

這顆玉山圓柏在環境這麽艱苦的岩脊上怎麽活下來的呢?真令人驚訝和起敬。

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東峰直下の稜線を登る。運よく再度視界が晴れてきた。

東峰走碎石坡。

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東峰登頂!残念ながら霧が濃くて圏谷方向の展望は得られないが、久しぶりに見る青空の青さは格別だ。

東峰了!壯麗的圈谷根本看不到。還好,看到藍天就比較坦然了。

しばらく山頂に佇み、今度は東北峰へ向かう。その前に水鹿池へ続く尾根の入り口へ偵察に行った。水鹿池とは中南峰から南東へ伸びる尾根の鞍部にある池である。今日このまま天気が良ければ幕営地を水鹿池まで移したい。登山道はないが、あまり急峻な箇所はなさそうなので尾根伝いに探しに行くことはできそうだ。そして水鹿池から北側の谷に降りられれば、11日に馬比杉山などに登頂して再び南湖山荘に帰ってくることも不可能ではない。

しばらく東峰から主峰へ向かう稜線を歩き、視界が悪くてはっきりしないが、水鹿池へ続く尾根の入り口は大体の見当がついたので、今度は東北峰に登りに行った。

東峰往主峰的方向走一會,粗略地觀察了一下從哪裏進去連接到水鹿池的稜綫,然後再去攻昨天已偵查過的東北峰。在路上想,今天天氣還可以,有可能把營地遷到水鹿池。明天如果從水鹿池能走下到北面溪流的話,還能去馬比杉山方面,當天可以回到南湖山莊。

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再び上圏谷に下りて今度は東北峰を目指す。

從上圈谷盡頭再去攻東北峰。

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昨日の場所から今度は藪を漕いで進む。

推開著樹下的草叢往東北峰走。

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ニイタカビャクシンがくねくねと、まるで手の込んだ盆栽のようである。

東北峰一帶還保持著原始的風貌,玉山圓柏長相都很有趣。

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ようやく東北峰に登頂だ!もちろん登頂に大きな意味はない。しかし、別段特徴もないこの山頂をわざわざ藪を漕いで踏みに来るような物好きな日本人は自分くらいしかいないであろうから、記念にケルンを積んでおいた。

到了東北峰山頂。爬上這座山沒有太大的意義。不過因爲我想除了瘋狂的我之外,不會有另一位日本人特意推開著草叢來這裡,所以把山頂的幾個石頭堆積起來留作了紀念。

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視界は完全に無くなった。天気がまだましなうちに水鹿池を探しに行こうと休みもせず急いで下山する。

しかし戻っている途中に天気は再び悪化し、風も今まで以上に強く吹きだした。視界も回復の見込みがなく、強風の状況で前進するのは嫌なのでやっぱり今日も南湖山荘に停滞することにした。明日馬比杉山方面に行くことは諦めざるを得ない。

抵達東北峰山頂的時候,已完全沒有視野了。我在天氣還好的現在想要去找水鹿池,可是下山的時候風雨漸漸地變強,我還是放棄前進,決定今天也留在南湖山莊。這次去不了馬比杉山了,可也無可奈何。

ラジオを聴いていると「今日は東北風が吹いてとても涼しく過ごしやすいですね」などと言っているが、標高約3400mの圏谷にいる自分にとっては皮肉でしかない。「明日は比較的安定した天気になり、行楽にも適するでしょう」と言っているのでそれを信じることにした。

警察廣播電臺的廣播員說;“今天吹著東北季風,好舒服的天氣哦” 。可是對身為海拔3400公尺的我來說,這卻是強烈的諷刺。

她接著說;“明天天氣比較穩定,適合戶外活動”,給我帶來一絲希望。

  • 10月11日

▲4-終日停滞ー▲5=▲4

夜中から稜線はゴーゴーと風が吹いていて、時折圏谷に吹き降ろしテントを大きく揺らしている。昨日はほとんど降らなかった雨さえ強く降ってきた。7時、8時、9時、10時、11時・・・ずっとテントで待機していたが、一向に天気の回復が見られない。午後になっても風は弱くなったが雨は降り続いている。そして遂に夕方になってしまった。

從半夜風刮得厲害,有時刮下圈谷來把帳篷晃動。昨天不怎麽下的雨也下起來,而且變得越來越大。

我相信昨天的廣播員,7點,8點,9點,10點,11點....都在帳篷裏等了天氣恢復,可還是一點都沒有好轉的徵兆。下午風變得穩定了,可是雨不停地一直下到日落還在下。

何ということだろう。このままでは主峰の登頂さえ危うくなってしまった。

這樣下去,有可能連主峰都攻不了。

「一体この圏谷に何時間滞在しているのだろう」と、ふと思った。そんな不毛なことを考えるのはやめようと思う自分がいる一方で、もう一人の愚かな自分が「8日の正午に着いて今が11日だから・・・」と勝手に12+24×3を計算しはじめた。そして非常に憂鬱な気分になった。

我忽然想,“我在這個圈谷裏到底待了多長時間了?” 我想這種問題不值得一想,沒意義,可還是禁不住想“8天中午到這裡,今天是11號,所以12+24×.....",然後心情變得非常鬱悶。

入園・入山申請の段階で明日12日が下山予定日になっている。つまり、今日一日停滞を強いられてしまったので主峰山頂を踏む機会は明日の早朝しかない。明日もこのまま天気が回復しない場合、主峰登頂さえせずに撤退することになる。それに仮に天気が回復したとして、明日は「主峰までの標高差350m往復+行きに12時間かかった道の下山」という限りなくハードな行程をこなさなければいけない。

入園証的期間是7號到12號,明天一定要下山。如果連主峰都沒爬就下山的話,真的不知道這次是來幹嗎的。但是如果明天要去攻主峰,明天的行程會很痛苦。

絶望的な気分に襲われながら夕飯を作った。

テントの中にいつの間にか蛾が入ってきた。そして、「来るものは拒まず」と思って一緒に夜を過ごすことに決めたその瞬間、ヘッドライトの光に釣られて熱々の鍋の中にダイブして即死を遂げた。本当に馬鹿だ。

我懷著悶悶不樂的心情做晚飯。

不知什麽時候有一只蛾進來了帳篷裏。我決定和它和平共處,一起渡過這晚上。正在這個時候,它被頭燈的光亮吸引,跳進鍋裏當場斃了命。真是個笨蛋!!

今日の夕飯は鱗粉入りカレーだなぁと思うと可笑しくなって自分で自分を嘲笑った。

所以今天晚餐是蛾翅瓣咖喱飯,我覺得太可笑,自己嘲笑了自己。

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夜が更けてからも、飽きもせず無尽蔵に雨が降り続いている。その絶え間ないポツポツポツポツという音と時折ゴーッとテントを揺らす風の音に若干ノイローゼ気味になりながら寝た。

半夜外面仍然下著雨。難道不會下膩嗎?

這幾天,尤其是今天一直有滴滴答答的落雨聲和轟轟響的風聲。早已聼夠了!

  • 10月12日

▲5-南湖大山ー南湖山荘ー南湖北山ー雲稜山荘ー多加屯山ー勝光

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今日で最後のピータンラーメンだ。

相変わらず視界は無いが、風はだいぶ静かになった。一人でテントを撤収するのにまだ慣れないので、風に飛ばされそうになって少し苦戦したが、素早く荷物を整理して6時に山頂へ出発した。途中で2パーティーくらいを抜かす。日本語で「頑張って!」と声をかけられる。

今天真的沒時間,吃了最後的皮蛋拉麵趕快收拾東西,去攻主峰。因爲我還不太習慣一個人收拾帳篷,帳篷不小心差點被風吹走,費了一點辛苦。

去主峰的路上遇到了幾個隊,他們用日語鼓勵我說,“頑張って(加油)!”。

我笑著說“ありがとうございます(謝謝)!”。

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露岩帯を登り、

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山頂にようやく辿りついた。展望はまるでない。ただ山頂の標識と日本統治時代に設置された三角点を眺めることによってのみ、南湖大山との知己について満足しなければならない。

ようやく電波が入ったので、緊急連絡先に連絡した。

「今日ようやく南湖大山主峰に登頂しました。今から下山するので、もしかしたら下山が13日までずれ込むかもしれません。食料は大量に残っているので心配はいりません。」

走るように山荘まで戻って荷物を回収した。既に7時50分。

終于抵達主峰山頂。山頂仍然五里霧中。壯麗的上下圈谷在哪裏?我只能為看到南湖大山山頂的標記和三角點而勉強地使自己滿足。

爲了保險我在山頂給緊急聯絡人打電話說;“今天終于有機會爬上主峰,雖然現在也全都是霧。我現在起下山,抵達等山口也許比計劃晚一天,也就是13號。剩下的糧食夠多,所以不用擔心!”

後來發現,這麽一大早打給電話,太沒有禮貌了。真不好意思。。

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息を切らしながら圏谷の北側急斜面を標高差200m登った。北峰に着くと、一瞬青空がのぞいた。

爬完真累人的陡坡再到南湖北山的時候,一瞬間藍天出現,再一霎那藏在霧氣裏。

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五岩峰が一瞬姿を現し、そしてまた霧の中に隠れた。

五岩峰。

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台灣鐵杉 Tsuga chinensis var.formosana タイワンツガ

急いで一気に標高を下げるので、林相が目まぐるしく変化する。

急著下山的路上,林相不斷地變化。

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台灣二葉松 Pinus taiwanensis

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下山途中に出会った台湾のパーティーが、暖かいデザートをよそって食べさせてくれた。急ぎの下山路の途中、つかの間の安心感と幸福感で満たされた。

在雲稜山莊遇到的臺灣登山客給我吃白木耳的甜點,使我滿懷幸福,再有精力走下去。

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雨後の森林はどこまでも清々しい。

雨后的森林裏空氣無比的清新。

かなり良いペースで下山している。もしかしたら14時半のバスにも間に合うかもしれない。残りの林道区間を急いだ。ワンゲルの山行の帰り、急ぎ足で何度も歩いた表丹沢の二俣から大倉バス停までの林道を思い出し、少し懐かしい思いに浸りながら。

我比預想走得快得多。我想,按那個速度來計算,也許趕得上14點半的客運。我繼續快步走林道、此時突然想起來日本丹澤山地的林道,也就是一年前跟登山社的隊員趕著走過很多次的林道。現在我卻一個人走著臺灣的林道。一年前在登山社,覺得跟其他隊員有很大的距離。想法也不一樣,喜好也不一樣,一直想馬上離開登山社得到自由。現在也不想回到當時,可是同時不禁懷念。不知道是怎麽回事。

やっと勝光登山口直前の果樹園まで下りてきた時、一匹の犬が野放しにされていた。鋭く吠え掛かってきて通行路を塞いで通してくれない。まるでスーパーマリオブラザーズの最後にクッパに出くわすようなものだが冗談じゃない。そんなゲーム性、誰も求めてないし。

在勝光登山口前的水果園踫到了惡犬。它沒有被鎖起來,一直向我吼不讓我過去,可惡極了。

凶暴な犬に出会った時、大切なのは絶対に背中を見せないことである。正対しながら投石や大声、足を踏み鳴らすなどで威嚇すればやり過ごすことができる。犬の対処には慣れているつもりだが今回は本気で危なかった。久しぶりに腹の底から大声を出した気がする。

雖然我三年前從四川的經驗學會了怎麽對待惡犬,這次差點被它襲擊受傷了。我跺了好幾次脚威嚇,向它投石頭,最後放了好久沒有放過的大聲把他趕走,好不容易突破了最後的難關到了登山口。

 ・・・色々あったが何とか下山できた。結局、行こうと思っていた場所の半分くらいしか行けなかったのは残念だ。けれども、出発前に「enjoy your adventure!! でも、安全に帰ってくるのが一番だからね。」と言ってくれた台湾の友人のことを思い出した。そう、元気に帰ってこれたのが何よりの幸せだなぁと小さな充実感に浸った。

終于回來了。遺憾的是我這次不能去當初想去的所有的地方。可是我想起來了在我出發之前一個臺灣朋友跟我說;“enjoy your adventure!平安歸來最重要”。他說得太對了,我平安無事地回來了,這就是最可喜的一件事情。

程なくやってきたバスに乗り込み、帰路についた。

等不久來了公車。我坐上,心中豁然地回家了。

(参考文献)

1ページ毎に1種の植物の写真と解説が載っていて使いやすい。

每一頁有一種植物的圖片及講解。很好用。

台湾山脈の空撮写真は圧巻の一言。そしてそれぞれの山域について、挿絵と共に動植物の解説がある。台湾の友人が22歳の誕生日プレゼントにくれた。すごく嬉しかった。

這是臺灣的朋友在我22嵗的生日送給我的禮物,臺灣山脈的空攝照片以及動植物的解釋非常精彩。我有空的時候常常翻看,感到很幸福。

植物名彙與基本資料查詢 Names and basic information - Plants of TAIWAN 台灣植物資訊整合查詢系統

中文名・学名・和名の対照に。