休学中の記録

梅の花香る安東河回村

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「安東河回村」は世界遺産に登録された韓国の伝統的な村で、120戸、230人ほどが暮らしている。李氏朝鮮時代の両班と庶民が暮らす村の雰囲気がそのまま残っており、蛇行して悠々と流れる洛東江に囲まれて立派な瓦葺の家と可愛い藁葺の民家が身を寄せ合う、美しい村だ。

今回は村で一泊し、村の中を隅々まで歩き回った。その中で面白いなぁと思った気づきを備忘録として残しておくと共に、実用的な情報も少し交えながら紹介していこうと思う。

 河回村の「門」の風景

河回村の家は今でも普通に人々が暮らしているため、多くの家は門を眺めたり、塀の上に少し姿をのぞかせている家屋を眺めなから中の様子を想像することになる。しかし、門を観察するだけでも色々な面白さがある。

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「建陽多慶」「立春大吉」と書かれた札は韓国の民家の門に良く見られる。こういった門の札は中国で良く見られる赤色の対聯の韓国版だと理解しているのだが、面白いのはこの札が上写真のように左右「ハ」の字型に貼られていることが多いことだ。

ガイドの金さんによると、これは「ハ」の字型というより、実は右側の札が左側より少しだけ高く貼られており、漢字の「入」の字を模しているのだという。つまり、福が「入」ってくるようにということでこういう貼り方をしているようなのだ。

こういう話を聞いて「面白いなぁ」と思えるのが漢字文化圏の素晴らしさである。

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こちらは「虎」と「龍」の字が貼られている。魔除けの効果を持つとして、韓国の家で良く見られるのだという。

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「萬福雲興」「千災雪消」

河回村の「借景」

いくつかの文化的価値が高い家は中を拝観することができる。中に入って韓屋の建物を見るのも興味深いのだが、面白いのは韓国の家の門が、そこから見える景色に配慮して建てられていることだ。門を枠のようにしてそこを通して見える景色は一幅の絵のようでもある。

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門を通して向かいの山が綺麗に眺められる。

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こちらは遠志精舎から門を通して眺めた芙蓉台である。「精舎」というのは学問に精進するために作った家で、書斎のような役割を果たしているという。周りの雄大な風景を取り入れて作られている素敵な建物で、このような場所で書に親しめばスケールの大きなアイディアがたくさん浮かぶような気がした。

建物がそれ自身だけで完結せず、周囲の風景を取り入れながら存在することは、まさに日本庭園の「借景」にも通じるものではないだろうか。

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韓国の多くの伝統建築では、門の外から中/中から外を覗いた時の見え方をとても意識しているようだ。後日ソウルに行った時に、昌徳宮の門から後ろの岩山が望まれたのもなかなか素敵な空間構成だった。

河回村の建物

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養真堂。写真左下の煤で黒くなっている部分が所謂オンドルの薪を燃やすところである。面白いのは家屋が高床になっていることだ。オンドルの煙が床下に広がり湿気を取る役割を果たし、殺虫効果があるのだという。日本の古民家でも囲炉裏で煮炊きする際の煙が茅葺屋根や木材への防虫効果を発揮し、家を長持ちさせるという話をよく聞くが、ここでは床下暖房設備が似たような役割を果たしている。

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梅の花が咲き誇る遠志精舎。河回村の中でも特に気に入った場所の一つだ。

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村のはずれの教会。

河回村の風景と木々

河回村の美しさは伝統家屋だけでなく自然景観にもある。洛東江の清流に加え、村の中では巨木や並木が大切に維持されており村の風格を形つくっている。

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河回村から洛東江を挟んだ対岸には「芙蓉台」の崖がそびえる。季節によっては渡し船があって、対岸に渡って芙蓉台に登ると素晴らしい展望が得られるそうなのだが、私が訪れた日には運行していなかった。「芙蓉」は蓮の花を意味しており、芙蓉台から河回村を眺めるとその形状が水の上に浮いている蓮のように見えることからそのように名づけられたという。

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村の少しはずれの河に面した高台には枝ぶりの立派な松の巨木がある。この場所には日本統治時代には小学校があったというから、きっと校庭の運動場の真ん中でたくさんの子供達の成長を見守ってきたのだろう。

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そしてこちらは村の中心部にあるケヤキの古木で、樹齢は600年ほどになるという。村のお祭りはこの木の周りで行われるらしい。

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芙蓉台を対岸に臨む河沿いの堤防上の道は桜並木となっていて、4月は満開に咲き誇る桜が見事だそうだ。3月下旬は桜には早かったが、別の一角には立派な松林が整備されている。夏場などは川風を感じながら木陰でゆっくり、といった過ごし方も良いだろう。 

河回村の花のある風景

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3月下旬に韓国に行くと決めた時、桜の時期には早いし、正直「選ぶ時期を間違えただろうか」と思っていた。

しかし実際来てみると梅や木蓮や山茱萸など様々な花が咲き誇っていてとても綺麗だった。ひんやりした気温が残りながらも、あちこちで花が香り鳥が囀る早春の雰囲気はとても心地よく、もしかしたら3月こそがベストシーズンなのではないかとすら思った。

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村には至るところに梅の木が植えられている。様々な花が咲き誇る村内にはたくさんの鳥が飛び交い、木々にはたくさんの巣がついていた。

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今回の韓国旅行でよく見かけたのが山茱萸の花。郊外の農村でも良く見かけたが、ソウルのオフィス街でもよく植えられているのを目にしたので韓国人にとってとても身近で親しみのある花なのだと思う。

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 河回村の宿

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今回宿泊したのは佳景斎という民宿である。左側の部屋が私が泊まった部屋で、オンドルの床暖房がついてとても暖かい。シャワーとトイレは別棟にあって、夜中にトイレに行くのは少し寒いがそれもまた一興だ。中はとても清潔であるし、ホスピタリティのある居心地の良い宿だった。

http://ggj.kr/

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注意が必要なのは河回村の民宿では通常食事が提供されないことだ。村の中に食事ができる場所がなく、食事をとろうとすると村のチケット売り場から少し離れた河回市場まで行かなければならない。夜の時間帯にそこまで行くのはあまり現実的ではないため、自分で何かしらの食料を宿に持ち込む必要がある。

今回私は安東駅すぐのHomeplusというスーパーで参鶏湯とマッコリを購入して持って行った。そして民宿の女将さんに無理を言って参鶏湯を温めてもらった。

ご厚意でキムチまでつけていただき、とても満足な夕食になった。オンドル部屋でキムチとマッコリをあてに参鶏湯を食すという、ベタなようだが「the 韓国」な感じに嬉しくなってしまう。

...ゆっくり休んでトイレに立つと、外は満月がとても明るかった。

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そして翌朝。5,000ウォンを追加すると朝食を出してくれる。カリカリに焼いたお餅とゆで卵、果物、そしてお茶が付く。

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朝食を終えて外に出るととても爽やかな朝だった。宿泊料金を払って、出発する。朝食込みで65,000ウォン。1人で泊まったので少し割高だが、料金は1部屋でカウントされるので、1人で泊っても2人で泊まっても料金は同じだ。2人や3人など複数人で利用するととても経済的に泊まることが可能だろう。

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出発する時、「今日は歩いて屏山書院に行く」という話をすると、屏山書院を出発する安東駅行のバスの時間を調べてくれた。そして「安東駅行のバスが途中で河回村の入り口を通るので、時間に合わせて荷物を届けてあげるから空身で歩いていけば良いよ」と言ってくれる。好意に甘えることにして、身軽な状態で屏山書院までの散歩を楽しんだ。

屏山書院までは山道で、新緑や紅葉の時期はきっと綺麗だろう。1時間ほど歩いてたどり着いた屏山書院は別天地のような素敵な場所だった。

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「屏山書院」はまさに名前の通りで、洛東江を挟んで対岸に山が屏のようにそびえている。「書院」というのは昔の学校のことで、日本で言うところの「私塾」のようなイメージのものだと思う。

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 縁側に座って眺めた景色は一級品だ。

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教室の両側は寄宿舎になっており、その手前に左右紅白の梅が植えられている。盆栽のように綺麗な形に剪定されておりとても綺麗だ。

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現在は学校としては使われていないのだが、春と秋にはこの場所で祭祀が行われるのだというので、もしその頃に訪れることができればまさにタイムスリップしたような気分が味わえるだろう。

...縁側でのんびりしているといつの間にかバスの時間が迫っていた。急いで立ち上がってバス停へ急ぐ。バスは河回村の入り口までは河沿いの凸凹道を走る。私がしっかりミートする場所を確認できていなかったのか、民宿の女将と危うくすれ違いになりかけるハプニングがあったが...何とか荷物を届けてもらった。

親切にしてくれた女将にしっかりとお礼を言えなかったのが心残りだが、別れ際いただいた両班の仮面のお土産を首にかけ、満たされた気分で村を後にした。

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河回村へのアクセス

今回は朝にムグンファ号で慶州を出発し、安東駅前で昼食を食べてからバスに乗って午後に河回村に着いた。1日前に慶州で新羅の文化に触れ、安東に来て李氏朝鮮時代の雰囲気を体感し、そしてその後ソウルに向かい日本統治期の近代建築や現代の都市景観を体感するわけなので、期せずして韓国の歴史をちょうど時系列に沿って追いながら旅行をしていることになる。

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安東駅の駅舎。韓国の鉄道駅の前には立派な松の木が植えられていることが多い。

旅情たっぷりな韓国の鉄道の旅については下記記事を参照してほしい。

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今回は安駅前で塩鯖定食で腹ごしらえし、246番のバスに乗って河回村の入り口まで着いた。バス停の位置はここでは詳しく説明しないが、駅前に観光案内所があって日本語にも対応してくれるので、そこで地図をもらうか問い合わせるかすれば問題ないはずだ。バスに1時間弱乗ると河回村の入り口に着く。入口にはチケット売り場があって、5,000ウォン払えばシャトルバスに乗って村までアクセスすることができる。

Tips

村の観光案内所には日本語観光ガイドの方が常駐しており、事前に依頼すれば案内してもらうことができる。今回、私は観光案内所ガイドの金さんの案内で村を回った。金さんは以前は日本語教室で仕事をされていたということで、とても流暢な日本語を話され、丁寧にガイドをしてくれる素敵な方だ。

最近は、色んな場所を回るたびに現地でガイドをお願いすることが多い。以前は一人で歩きまわることが好きだった。しかし、自分で見ているだけでは気づかない様々な視点や物語をガイドの人から聞くことで、よりその旅先を詳しく理解することができるし、またあとから思い返しても印象に残る旅になることに最近気づいた。

特に1人でもガイドを申し込める場合、周りの人に気兼ねすることなく疑問に思ったことをいつでも聞くことができるし、単純に会話を楽しむことができるので、単調になりがちな一人旅に豊かな思い出を添えてくれる。

また、今回事前の旅の情報収集は、下記のブログを参考にした。

https://hahoeblog.wordpress.com/

河回村の観光案内所に勤務されている石川さんという女性が日々の生活や村内の様々な風物を発信している素敵なブログで、ガイドに関する事前の問い合わせにも対応いただいてとてもありがたかった。