私は個人的に琵琶湖の湖西地方がとても好きで、高校生の時から頻繁に訪れています。特にJR湖西線の高架から見下ろす湖と山の風景はお気に入りで、青春18きっぷで関西から北陸方面に旅行する時は必ず湖西線を利用してきました。
秋から冬の時期などは朝早く奈良の実家を出るとちょうど湖西線で日の出を迎えます。浜大津のあたりで少し空が明るくなりはじめ、時期にもよりますがたいていは志賀、比良のあたりで朝日が湖の真正面から昇ってきます。北小松あたりの集落は水田に囲まれ、湖に面し、随分昔の佇まいを残していて、瓦屋根が朝日に照らされる風景はとても印象深いものでした。
滋賀県は北陸への通り道として通過することも多かったのですが、手軽に遊びに行ける場所としても重宝していました。青春18きっぷが1回分余った、というような場合には琵琶湖に泳ぎに行くこともありましたし、10年前、近江塩津からマキノまで、奥琵琶湖パークウェイを友人と自転車で冒険したこともありました。湖北は山が湖に迫り、リアス式海岸やフィヨルドをも思わせる風景が広がり、湖水は穏やかで透明度が高くて気持ちの良い場所でした。
前置きが長くなりましたが、湖西地方を訪れるとそんなたくさんの思い出がよみがえってきます。昔のことを思い出しながら登山口を目指しました。
今回は近江高島の駅で降りて、コミュニティバスで「畑」という集落まで乗ってから出発しました。畑の集落は大規模な棚田が有名です。
畑の集落の八幡神社は、境内の杉の大木から見るにかなり歴史の古い神社のようでした。良い意味で飾り気がない神社で、純粋に地元の人達が自分達のために維持してきたような素敵な雰囲気でした。
よく整備された人工林の登山道を歩き始めると早速大きなキノコに出くわしましたが、私には判別がつかないのでパスします。
木漏れ日が心地よい秋の森にはたくさんのドングリや栗の実が落ちていました。
比良の山々は人の手が入った森なのか、大木と呼べるような木はあまりありませんが、シロモジの黄葉が綺麗でした。
山頂にたどり着くと、安曇川扇状地が一望できます。教科書通りの扇状地の風景で、山裾と扇端の湧水帯に古くからの集落が分布しているように見えます。湖東は鈴鹿の山々から伊吹山までくっきりと見渡すことができました。
湖北の湖岸線、竹生島、そして左奥には冠雪した白山の姿まで見えました。
下山途中に沢を横切る時、ふと地面の倒木に目をやると黄金に輝くキノコが群生していました。これはヌメリスギタケかヌメリスギタケモドキに間違いありません。どちらの場合であってもおいしくいただけるので、採集しておきます。
朽木の町に下山すると、街道筋に古い町並みが広がっています。ひときわ目をひくのは、昭和8年に建てられた木造洋館の丸八百貨店で、中では地元のおばあちゃん達がお茶を飲んで談笑していました。せっかくなので雑談がてらこの辺ではどんなキノコが採れるんですか?と聞くと、
「うーん最近はよう採らんわ。キノコは危ないからなぁ。」
「昔はショウゲンジとかを良く採ったよ、この辺では「ボウズタケ」って呼ぶことが多いけどね」
「最近は鹿が多いしキノコも減ったんとちゃうやろか。」とのことでした。
最近ではキノコを利用する人はあまり多くないのかもしれません。
さて、下山後は朽木や安曇川の道の駅をまわります。道の駅には滋賀・琵琶湖の豊かさが詰まっていました。佃煮はもろこ、ごり、小えびを筆頭に、冬になったら氷魚(鮎の稚魚)も出ます。
王者・鮒寿司はもちろん、鮎・かまつかのなれずしなど発酵食品のバリエーションもとても豊富でした。そして湖魚に留まらず鯖街道の歴史を反映して鯖寿司や鯖へしこもたくさん売られていました。酒飲みには本当にたまらない場所ではないかと思います。
たくさんお土産を買ったところで、今回に合わせるお酒を選びます。まずは湧水の里・針江にある川島酒造で「松の花」のひやおろしです。慶応年間に創業した歴史ある酒蔵で、酒蔵の前にはおいしい湧き水がコンコンと湧いています。「松の花」という名前は、酒蔵を立てた場所にもともと大きな松の木があったこと由来しているそうです。その木は伐採されたそうなのですが、「松の花」はその魂をしのんで、ということなのかもしれません。
もう一本は湖に面した石積みで有名な海津の里の吉田酒造「竹生嶋」にしました。海津からは正面に竹生島が見えます。
さて、帰ってきてからは友人家で酒盛りを始めます。鮎はちょっと苦みがあって大人の味でおいしいです。もろこも旨味が詰まっていてとてもおしいのですが、2000年代に入って漁獲量が激減しているそうですので、大事に食べたいところです。
鯉はコリコリとした食感がおいしいですが、九州にゆかりのある友人によると、鯉は九州の方がレベルが高いとのことでした。佐賀のお土産だという唐辛子の入った赤柚子胡椒で食べるととても美味でした。
つづいては鮎の甘露煮。子持ちの鮎で卵の部分がとてもおいしいです。
続いて惣菜です。安曇川の道の駅の惣菜は牛スジ煮込み(滋賀名物赤こんにゃく入り)やニシン茄子など、一品一品レベルが高いです。しかも値段もお手頃です。
そして安曇川駅前の湖魚屋さんで買った発酵食品の王者、鮒寿司を食べます。強い酸味と旨味がまじりあうとても不思議な味でした。お酒にとてもよく合いますし、米麹の部分もお茶漬けにするとおいしくいただけます。
湖魚をはじめ琵琶湖の恵みのオンパレードに満足したところで、最後に先ほど採集したヌメリスギタケモドキを味噌汁にします。
乾いている時はそれほどでもありませんでしたが、水洗いするととたんに傘にかなりの粘性が出てきました。
味噌汁にするとほんの少しシャキシャキ感のあるナメコのような味でとてもおいしかったです。
今回は高校生の時とはまた違った視点で、滋賀県・琵琶湖の魅力を再発見できてとても楽しい旅になりました。