北八ヶ岳は森と湖の景色を楽しみながら軽装でのんびり歩くことができるので、癒し系の山行にはとても良い山域です。特に秋になるとコメツガ・シラビソの針葉樹の緑にダケカンバの黄葉がよく映え、林床を覆うフカフカの苔の上にはたくさんのキノコが生えて賑やかです。
北八ヶ岳には白駒池、双子池など様々な池/湖がありますが、私が特に好きなのは雨池という池です。麦草峠のバス停から1時間強で着くことができるので決してアクセスは難しくないのですが、湖畔に山小屋が無いからか歩く人も少なく、静かな水辺の景色を楽しむことができます。
水辺は霧に包まれて神秘的な雰囲気で、時折日光が差すとダケカンバの黄葉がより一層鮮やかに輝き、湖面に反射します。
そんな池の周囲をぐるりと歩いているとたくさんのトンボの姿に出くわします。
ムツアカネ Sympetrum danae
トンボ科アカネ属の仲間(いわゆる「赤とんぼ」の仲間)なのですが、雄は成熟しても赤くならず、黒くなるという特徴的なトンボです。本州では八ヶ岳を始め標高の高い場所の水辺でしか見られません。
コノシメトンボ Sympetrum baccha
翅の先端に褐色紋があるので、はじめはリスアカネかな、と思いましたが、胸の部分が赤いのでコノシメトンボだと思われます。基本的には低地~低山地で見られることが多いそうですが、稀に標高2000mを越える場所で見られることもあるようです。
どうでもいい話かもしれませんが、私は数ある昆虫の中でも特にトンボを贔屓にしています。というのも、登山者の大敵であるブヨを駆逐してくれるからです。
6年前の夏に飯豊の山を縦走した時、歩き始めからずっとブヨに付き纏われてとんでもない思いをしました。私も事前に想定して、虫除けになるハッカ油を体中に吹きかけ、防虫ネットも着用して万全の体制で臨んでいたのですが、防虫ネット越しとはいえ常に大量のブヨに付き纏われてそれはひどいものでした。
そんな時、俄かに青空が広がったと思うとどこからともなくトンボが大編隊を組んで辺りをパトロールしはじめ、ほどなくしてブヨを一網打尽にしてくれました。これまで散々ブヨのゲリラ攻撃に遭って苦虫を噛み潰すような思い(比喩ではなく、注意しないとブヨは口にも入り込んでくるので、リアルに苦虫を噛み潰しかねないのです)をしていたところ、最強の友軍飛行隊が援軍に駆けつけてきてくれたことに感激したのは言うまでもありません。
本当に虫や自然が好きなのであればブヨもトンボも分け隔てなく愛するべきなのかもしれません。でも、私はその境地には達していません。あの時私を助けてくれたトンボは何トンボだったのだろうなぁ、と昔のことを懐かしく思い出す、そんな北八ヶ岳の旅でした。