ルートバーントラックを起点・終点に、フィヨルドランドの山深くに入って探検した記録。
An attempt to tramp further into the mountains in Serpentine Range, Firodland National Park.
- 2月5日
Te Anau の街からThe divide までヒッチハイク。その後、The divideからLake Marian Trackの入り口まで歩き、またちょうど通りかかったトラックに乗せてもらってHollyford Roadの登山口まで。
いよいよニュージーランドで冒険性の高い山行ができ、ちょうど天気にも恵まれたことは非常に嬉しい。けれど、Te Anauから乗せてくれた運転手の女性が僕にかけた言葉がいつまでも頭の中をこだましていて、複雑な気持ちだった。
「あなたがブログで情報を発信するのなら、そのことが持つ意味についても考えた方がいいわよ。情報を発信することをきっかけに、元々静かで美しかった場所に人が入って行って、その場所が変わり果ててしまうかもしれない。或いは山に慣れない人がよく考えずにその情報を参考にした結果、事故につながるかもしれないんだよ。そういう責任はきっちりと考えておかないと駄目だよ。」
朦朧としながら歩き始めると開始早々苦戦を強いられた。道を見失い、よくわからない藪の斜面をひたすら突っ込む羽目になって体力を大幅に消耗する。
ひたすら藪の急斜面と格闘すると、ブナ林に出た。ニュージーランドのブナにはナンキョクブナ科に属し、主なものにred beech, silver beech, mountain beechが挙げられる。常緑樹であり、葉がかなり小さいなど日本のブナとはかなり異なった様相を見せる。
1. – Southern beech forest – Te Ara Encyclopedia of New Zealand
3時間ほど藪と格闘したのちようやく正規の道に復活し、息を切らしながら急登を経てようやくルートバーントラックに合流した。ここから続く快適な砂利道はまさに山の中の高速道路だ。
ルートバーントラックの景勝地、Lake Harrisの西岸を伝ってValley of Trolls に入渓する。
Valley of trollsの湿原を踏み、正面に現れる巨大な滝の横(写真中央のガリー)を通って行くとLake Wilsonにたどり着く。
Yellow snow marguerite (Dolichoglottis lyallii)
白色の花を持つSnow Marguerite(Dolichoglottis scorzoneroides)と掛け合わさると、黄色と白の中間のクリーム色の花を咲かせる(下写真参照)
夕方、風は凪ぎ、Mt Erebus(1972m)と、翌日登頂する予定のpt1807を筆頭とする山々が深い藍色を湛えたLake Wilsoonの湖面に映り込んだ。静かな感動を覚えながら、湖畔に座ってその景色をボーっと眺めた。
South Island edelweiss (Leucogenes grandiceps)
やがて夕焼けが山をルージュに染めて行った。
遥か下にルートバーントラックのLake Harris, 反対側にはLake Wilsonを眺望する岩の上に寝床を定めた。マットを敷いて夕食を作って食べて、本を読んで・・・いつもの作業が淡々と繰り返される。そして日本と台湾にいる人達のことを少し思ってから満天の星空の下で寝た。
- 2月6日
朝、目を覚ますと、眼前に広がる山の色が今まで僕が日本で見てきたものとは明らかに異なっていた。人を寄せ付けない岩山がどこまでもドスンドスンと居座り、それが際限なく広がる様に畏怖を感じた。
誰に急かされるでもないし天気も良いので、この上なくのんびりとゆっくりと荷物をまとめて出発した。
Snow Marguerite(Dolichoglottis scorzoneroides)
北島から南島までの山中の水辺によく生える植物。今回歩いたフィヨルドランドには特に多かった。前述のYellow snow marguerite (Dolichoglottis lyallii)と掛け合わさるとクリーム色の花を咲かせる。
Lake Wilsonを高巻するために東側の台地に乗ると、Mt.Erebusからの雪解け水が小川を成し、その横にはSnow Margueriteの花が最盛期を迎えている。
湖畔を縁取る山の更に向うに聳えるのは氷河を携えたDarran Mountains。この2つの山脈の間の谷にはHollyford Trackが遥かタスマン海まで続いている。
Hollyford Track: Walking and tramping in Fiordland National Park, Hollyford Valley area
Wilson Lakeに北から注ぎ込む小川に入って遡行を続けるともう一つの湖に辿り着く。簡単に遡行できるのはここまでで、ここからPt1807に登るためには、どこから稜線に取りつくかを見極めなければいけない。
できるだけ雪が少なくて登りやすそうな斜面を選んだつもりだったが、やっぱり最後には雪渓に出くわした。緊張感を覚えながら丁寧に一歩一歩キックステップを刻み込み、「えらいことやなぁ」と他人事のように呟きながら登った。
雪渓を抜けて振り帰ると、自分が付けた足跡が点々と続いている。それを見て急に恐怖を覚えたが、もう過ぎたことである。山頂は目と鼻の先だ。
Pt1807の山頂に立ち、際限なく広がる山並みを見下ろしながら、「こんなに長いように歩いたように思えるのに、まだこの山域の入り口の入り口に立ったに過ぎないんだなぁ・・・。」と思った。
それはスピッツの「春の歌」の歌い出しの部分の歌詞を思い起こさせる心境であり、一面を占める静寂の中で、あの軽快なメロディーが頭の中で心地よく流れた。
Pt1807からは稜線に忠実に歩き、Pt1715,1690は東側から巻く。
幕営地に定めた約1460m鞍部の池。
気持ちの良い昼下がり、裸になって寝転がり大きく息を吸った。人の気配がまるでない海外の山の中を自由奔放に歩くことができるのがただただ嬉しかった。
そしてまた綺麗な夕焼けがやってきた。まだ山に来て3日目なのに早くも日を忘れそうな気がした。
- 2月7日
引き続き稜線歩きを続ける。
岩峰を一つ越え、鞍部に降り、また一つ越えていく。岩場は非常に急峻であるが、探せば弱点はあるものである。今回はそれほど危険を感じずに進んだが、天気によっては非常に苦戦を強いられることだろう。斜面に生えている草は良い手がかりを提供してくれる事がある一方で、朝露や雨などで湿っていると驚くほどに滑るのである。
Pt1796~North Col(1589m)~Nereus Peak(1962m)
Pt1796を目指して進んで前進、前進、前進。
そして辿り着いたPt1796からの展望は何だか不思議と西穂高のあたりから上高地を見下ろした風景を彷彿とさせた。しかしもちろんここはニュージーランドなので目を転ずると氷河を被った山々が眩しく光っている。
Poseidon Peak(2208m)から連なる山々。
North Colから今にも崩れそうな雪渓を避けながら時には水流中、時には右岸を選びながら沢を下降していく。
Snow Margueriteを前景にSomnus(2293m)
本流に出ると、川沿いの台地は思ったよりでこぼこしていて非常に歩きにくい。そこで登山靴のまま川の中をジャブジャブと進むことにした。照りつける太陽の中、ひんやり冷たい水の温度を心地よく感じながら川を下降していった。
やっとのことでRouteburn north branchの登山道に合流し、Routeburn Flatsにて一泊。
- 2月8日
最終日はルートバーントラックの観光だ。
朝起きると谷は霧の中。
Lake Harrisを眼下に見下ろす高台で装備を乾かす。
雲海がHollyford Valleyを埋め尽くしている。
Lake Mackenzieに流れ込む雲。
3日間の疲れがどっと出て、結局5日分持ってきた行動食と非常食を食べつくしてしまった。体力にはやっぱり課題が残った。
- 参考
参考までに大まかなルートを地形図の赤線に記しておいた。
Classic Tramping in New Zealand
今後ニュージーランドの山に行く人がいれば、この本なども参考にすると、更にスケールの大きい山旅を楽しめるだろう。鳥瞰図と豊富な写真、解説付きでルートを説明している。