杭州の郊外を自転車で回った5年前の夏の記録。数々の漢詩の舞台となった西湖の風景を巡り、中国を代表する緑茶「西湖龍井」の産地を訪れた。
西湖の風景
ユースホステルで自転車を借り、西湖を一周する。西湖の湖畔には石橋や楼閣、東屋や古寺が点在していて、全体で巨大な回遊式庭園のようだった。
晴れ渡った空を映しながら、さざ波にゆらめく西湖の様子を、宋代の文人・蘇軾は「水光瀲灩晴方好」と表現している。1000年前の杭州もこのような風景だったのだろうか。
夕方、日帰り観光客の波が去った蘇堤を自転車で風を切りながら走った。簾のように生い茂る柳の間から湖面が覗き、素朴な遊覧船が行き交う様子が見られた。午後になって天気は曇り、時折小雨も降ってきたが、蘇軾が「山色空濛雨亦奇」と表現したように、朦朧とした景色も西湖の魅力の一つだと思った。
西湖一帯には蓮の花の名所も多い。蓮の花は、『愛蓮說』という宋代の詩の中で「出淤泥而不染(泥から出るのに泥に染まらず清らかな花を咲かせる)」と賛美されている。中国の夏を代表する花で、留学中は蓮の名所を求めてたくさんの庭園を訪れたのが懐かしい。
龍井へ
西湖を一周した翌日は、西湖龍井の産地を訪れた。
西湖から西へ自転車を走らせると山々の間に茶畑が広がり始める。
まずたどり着いた茶葉博物館は茶畑と庭園に囲まれていて、まるでジブリの世界観を体現しているかのような素敵な場所だった。
付近の茶畑を散歩していると小さな登山道を見つけたので、少し探検してみることにした。
緩やかな斜面に沿って一面に茶畑が広がり、遠くには西湖の湖面と杭州の市街地が見える。
展望の開けた場所に出ると、西湖の向こうに杭州市街のビル群がはっきりと見えた。
自転車を置いた場所に戻って、また急な坂道を更に奥へ奥へと進んでいく。どんどん木々の緑色が濃くなっていき、やがて素朴で小さな茶商が一軒、また一軒と点在している一角にたどり着いた。
恐る恐る中へと入っていくと、一組の夫婦がお喋りをしながらお茶を飲んでいた。常客なのだろうか、老板娘と親しそうに話していて楽しそうだ。私はおどおどとしながらも、勇気を出して声をかけた。
朝からご飯を食べず、山にも登って自転車も漕ぎっぱなしだったので食に飢えていた。まずは遅い昼ご飯にし、そして食後のお茶をゆっくり楽しむことにしてあとはお任せで注文した。
...提供された食事は明らかに2~3人前ほどの分量はあったが、あっという間に完食した。向日葵の種をかじりながら食後の緑茶を楽しみ、このロケーションであれば、本でも持ってくればエンドレスに楽しめそうだなぁと思った。
老板娘と夫婦の間の会話が断片的にしか聞き取れないが、聞くと杭州の方言なのだそうだ。この時何を話したかもう忘れてしまったが、おじさんの方は仕事で日本に行ったこともあるということで、夫婦2人共とても親しく接してくれたのをよく覚えている。
お腹が落ち着くのを待って、ユースホステルまでゆっくりと自転車を走らせた。日本の茶産地ととても良く似た風景が広がる一角があって、時々休憩しながら風景をカメラに収めた。
部屋に帰ると同室には個人旅行の大学生が2人。一緒に夕食を食べに行き、食後にはみんなで暗い夜道を歩いて銭塘江大橋を見に行った。夜の水辺にたたずみながらライトアップされた橋をボーっと眺めた。
自分が好きだったのは、こういう飾らない中国の風景と人だったんだなぁ...