旅行や山歩きが好きで、これまで色々な場所を訪れてきました。はじめのうちは景色を漠然と楽しんでいたのですが、そのうち道端の植物や動物に目が行くようになり、特に眼前をヒラヒラと舞う色とりどりの蝶は印象的で、よくカメラに収めるようになりました。
そして最近、これまで撮りためた蝶の写真を整理するにあたって図鑑を購入することにしました。図鑑を通してまだ出会ったことのない蝶を知ることができますし、これまで観察したことのある蝶についても関連知識を深めることができるのは楽しいです。
さて、世の中に蝶の図鑑はたくさんありますが、その中で特におすすめなのが下記の書籍です。
まずはページ左端に成虫出現時期、分布地域が記載されています。この部分を見ると観察できる地域・時期を確認することができますし、観察難易度も大まかに把握できます。そしてページ下部には成虫の体長(前翅長)が物差しで記載されています。写真に撮ってしまうと大型のアゲハチョウも、小型のシジミチョウもほとんど同じ大きさに見えてしまうことが往々にしてあるのですが、この情報があることで実際の体長をイメージできるのはとても便利です。
これらの情報は説明文章の中で記載されるよりも、本書のように独立して欄外に表現してもらえると、情報が一目で把握できるのでとてもありがたいです。また、何より本書の魅力は書名が示す通り、使われている写真のクオリティが高く、蝶の生き生きとした一瞬を巧みにとらえていることです。パラパラと頁をめくるだけでも十分楽しめます。
観察記録
せっかくなので図鑑を見ながらこれまでの観察記録をまとめてみました。
アサギマダラ Parantica sita
白山山麓にて2014年9月撮影。
秋季に南西諸島や台湾へ「渡り」を行う蝶で、和歌山県から香港、長野県大町市から台湾の離島・蘭嶼などへの飛行記録があるそうです。和名の「浅葱」という日本ならではの色の表現もとても好きです。
コヒオドシ Aglais urticae
トムラウシ山にて、2019年7月撮影。
日本では本州の中部山岳地帯や北海道のみで観察される寒地性の蝶で、夏期は高山帯に移動し、大雪山系や日高山脈で大集団が観察されることもあるということです。昨年、トムラウシ山の南沼キャンプ指定地で集団発生しているのに出会ったのですが、青空のもと色鮮やかなオレンジ色のコヒオドシが飛び交う様子はとても綺麗でした。
ダイセツタカネヒカゲ Oeneis melissa
大雪山系の荒井岳~北海岳の稜線上にて、2019年7月撮影。
北海道の高山帯(標高1700m以上)のみに分布する高山蝶で、国の天然記念物に指定されています。北海道最高峰・旭岳の裏旭キャンプ指定地を早朝出発し、稜線に出た時に出会いました。気温が上昇すると飛翔が敏捷になり観察が難しくなるようなのですが、朝早く出発した甲斐があってゆっくり観察することができました。
ワタナベアゲハ Papilio thaiwanus
台湾北部、新竹県横山郷にて2019年5月撮影。
学名(種小名)の「thaiwanus」、中文名の「台灣鳳蝶」からも窺えるように、台湾を代表するアゲハチョウです。和名の「ワタナベ」は昆虫採集家でもあった日本統治期の警察官の名前から来ているようですが、このように台湾の蝶には和名がつけられていることがほとんどなので親しみやすいです。
モンキアゲハ Papilio helenus
暖地に多い日本最大級の蝶で、吸水に来ていたのか渓流沿いに数匹が固まっていました。モンキアゲハに代表される黒いアゲハチョウの仲間は地面に吸水に訪れることが多いそうで、その姿を観察するのはとても興味深いです。
ヤマトシジミ Zizeeria maha
長野県大町市にて2019年10月撮影。
シジミチョウの仲間はとても小さいです。図鑑や写真で見るとイメージしにくいかもしれませんが、実際の姿は本当に小さく、翅を開閉する姿を二枚貝の「シジミ」に例えたのは本当に言い得て妙だなぁと思います。「ヤマトシジミ」と言えば青森県十三湖や島根県宍道湖の高級シジミが思い浮かびますが、こちらは蝶のヤマトシジミで、人家の近くでも観察できる最も身近なシジミチョウの一つです。
モンシロチョウ Pieris rapae
台湾東部・台東県池上にて2020年1月撮影。
台湾の池上はお米の名産地として有名で、台湾一周旅行中に「池上便當」を食べるために下車する人も多いのではないかと思います。私が訪れたのは1月上旬でしたが、菜の花が咲き乱れモンシロチョウが飛び回り、春真っ盛りのような景色が広がっていました。
キアゲハ Papilio macharon
霧ヶ峰にて2019年9月撮影。
ビーナスラインをドライブしていた時、休憩中に道端で見つけました。確信はまだ持てていないのですが、おそらくキアゲハの幼虫だと思います。蝶の幼虫は〇齢幼虫、というように脱皮毎に姿を変えるので、私のレベルではまだ見分けるのが困難です。キアゲハの場合、幼虫がセリ科の植物を好むなどの特徴があるそうですので、食草を手がかりにしながら幼虫や毛虫の観察も始めてみようかな、と思っています。
ウラギンシジミ Curetis acuta
その名前の通り翅裏が白く、日光を反射すると銀色に輝きます。個人的には足の縞模様が可愛いなぁと思います。良く晴れた秋の日の朝、気分転換に横浜の山下公園へ散歩に行ったのですが、ニューグランドホテル前の信号を渡ったところで、ウラギンシジミが目の前を横切りました。その姿を追いかけて、葉の上で日光浴している様子を撮影しました。ウラギンシジミは成虫で越冬するらしく、1年を通して広く観察できるそうです。
ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius
神奈川県横浜市の自宅近くにて2019年9月撮影。
ツマグロヒョウモンは、都市部で最も観察しやすいヒョウモンチョウではないかと思います。パンジーなどのスミレ科の園芸植物を利用して増えるので、郊外住宅地などで大発生しているのをよく目にします。
リュウキュウアサギマダラ Ideopsis similis
アマミウラナミジャノメ Nacaduba kuvara
台湾北部・陽明山国立公園の冷水抗付近にて2015年9月撮影。
台北近郊の陽名山国立公園は、火山があり温泉があり、山地草原には蝶が飛び乱れるとても素晴らしい場所です。硫黄の匂いが充満する噴気孔の小油坑から出発し、台北市最高峰の七星山に登って、草原が広がる冷水坑に下山したのはもう5年前のことですが、登山中に見た色とりどりの南国の蝶の姿は深く印象に残っています。
リュウキュウアサギマダラ、アマミウラナミジャノメはその和名が示唆する通り、日本の奄美諸島や琉球諸島でも見られるのですが、台湾では特に多く観察できました。
ツマムラサキマダラ Euploea mulciber
台湾北部・陽明山国立公園の冷水抗付近にて2015年9月撮影。
リュウキュウアサギマダラを観察した近くの場所で、ヒヨドリバナ属の花を訪れている姿を撮影しました。日本では迷チョウとして飛来した南西諸島で近年定着化しているようですが、個体数は決して多くありません。一方台湾では本種を含むルリマダラ属(Euploea、紫班蝶)は広く見られ、冬季には南部・高雄の茂林という場所で大量に集団越冬することで知られています。