最近、きのこの観察を始めました。きっかけは、昨年秋に上高地でたくさんのきのこを見かけたことで、図鑑で調べたりビジターセンターの職員の話を聞いたりしているうちに、いつの間にかその魅力に取りつかれていました。
まだまだ足を踏み入れたばかりで知らないことだらけなのですが、今回の記事ではきのこ観察初心者の目線で、簡単にその魅力を紹介したいと思います。
きのこ観察の魅力
きのこを通して森をより深く知ることができる
コメツガ、シラビソ、ダケカンバ等で構成される北八ヶ岳の亜高山帯林。イグチ科のきのこが多くみられる。
森に生えてくるきのこの種類は、森林を構成する木の種類と大きな関係があります。
例えばナメコを採るならブナ林、ハナイグチはカラマツ林、ヤナギ(ケショウヤナギ)の木が多い上高地にはヌメリスギタケモドキが多い、といった形ですが、このように、きのこを理解するためには木/森を理解することが欠かせません。
きのこに興味を持って探すようになると、必然的に森林を構成する樹種や、森林帯に意識が向くようになります。また、木ときのこの共生関係をはじめ、きのこが森林の中で持つ役割を知ると、大きな自然の物質循環のイメージを持つことができて視野が広がります。
東日本の多雪地帯に広く分布するブナ林。晩秋の森にはナメコやムキタケなどが多く見られる。
天気に関わらず観察が楽しめる
きのこ観察の大きな魅力の一つは、全天候で楽しめることです。晴れた日ももちろん良いですが、雨露にしっとりと濡れたきのこは、光沢や透明感を持つようになって魅力的ですし、周りの苔などとも合わせてより生き生きと輝くようになるような気がします。
私は登山中にきのこを観察しているのですが、きのこ観察を目的に山に入ると、天気が多少悪くても良いかなぁという気持ちになって気が楽です。単調になりがちな下山中でも、きのこを探しながら歩くと、飽きずに歩き続けられます。
神出鬼没で興味深い
きのこは地面や倒木などから突如としてニョキニョキと生えてきて、役割を終えると跡形なく消えていくという非常に神秘的な一面があると思います。
例えば、上の写真は林道の脇に生えていたヒトヨタケ属(Coprinopsis)のきのこですが、この種類は胞子が成熟するとひだが液化して、傘は溶けてなくなるという性質を持っています。実際、一番右の傘からは溶けたひだが垂れ下がってきているのが見てとれるのではないでしょうか。
このように神出鬼没なきのこの生態には興味が尽きません。
食が豊かになる/食文化を知ることができる
多くの人にとってのきのこの魅力は、何といっても食料としての利用価値が高いことだと思います。私は食べることが大好きなので、自分の食生活の中に是非天然きのこを取り入れて楽しんでいきたいと思っています。
また、少し視野を広げてみると、きのこを通して各国の食文化の違いを知ることができるのも興味深いです。例えばナメコ、ハナイグチのようにぬめりの強いきのこは日本でとても人気ですが、欧州ではぬめりは嫌われやすいそうです。
ぬめりの強いキノコを味噌汁にするととてもおいしい、というのは極めて日本人的感覚なのかもしれない。食文化の違いによって異なるきのこが好まれ、欧州で人気なポルチーニ、トリュフといったきのこは、伝統的な日本料理では利用されてこなかった。
更に少し視点を変えて、名称の違いに着目するのも面白いかもしれません。例えば、中国語ではポルチーニのことを「牛肝菌」、アミガサダケのことを「羊肚菌」と呼称しています。誰が中国語名を命名したのかはわかりませんが、キノコの外観から「牛肝」「羊肚」といった食用肉の内臓が連想され、命名されているという事実は、中華圏の食文化を強く反映しているように思われます。
フランス料理によく登場するアミガサタケは、中国語では「羊肚菌」と呼ばれる。日本人には羊のモツを食べる習慣はないのでイメージしにくいが、「羊肚」 を画像検索してみると外観が確かにアミガサタケと似ていて面白い。
国外に目を向けなくても、国内のきのこ利用の地域差に着目するのも興味深いです。他の地域の人にはあまり馴染みがなくても、ある特定の地域で広く食用として採取されている、いわば「ご当地きのこ」と呼べるようなものが全国にあるようです。*1
旅行する際には、ご当地きのこに着目して、機会があれば味わってみるのも楽しいのではないかと思います。
さて、次回はこれまで私が観察してきたきのこを紹介していこうと思います。
*1:代表的なものとしては栃木県で人気の「チチタケ」や、千葉県で人気の「アミタケ」などが挙げられるようです。