2017年の7月、白馬岳から下山後に佐渡島を旅行しました。1日目は直江津港から佐渡汽船で小木港に渡って宿根木の集落を観光し、2日目は佐渡北部の外海府海岸の景勝地を中心に回りました。もう3年前の話ですが、当時を思い出しながら植物と自然、食べ物と飲み物、集落と人の3つのカテゴリーに分けて旅行記を書きました。
佐渡の植物と自然
新潟交通佐渡のバスに乗って、大野亀海水浴場へ向かいます。両津港から大野亀へ向かう内・外海府線というバス路線ですが、車窓には大きく海が広がり、とても旅情豊かな路線です。
たどり着いた二ツ亀海岸はとても透明度の高い海水浴場です。7月中旬はまだ人が少なく、日本海ブルーを独り占めすることができました。海で泳いだ後は、もう一つの景勝地「大野亀」に向かって海岸沿いの遊歩道を歩きました。
海岸の遊歩道沿いにはたくさんの植物が観察できます。まず目についたのはハマナスの実でした。ハマナスと言うとピンク色の花が思い浮かびますが、開花後はミニトマトのようなつやつやした実も楽しめます。ほどよい甘さがあって、ジャムや果実酒にも使えるそうです。
以前宮本常一の著作の中で読んだのですが、下北半島の尻労(しっかり)という場所では、このハマナスの実を連ねて括って数珠を作る風習があったようです。お盆にはそれを持って墓参りに出かけ、またお地蔵さんの首にもその数珠をかけていたそうです。
佐渡でハマナスの実を見た時、まず思い浮かんだのがこの下北半島のハマナスの数珠でした。そしてその後に『知床旅情』で歌われたハマナスの花が思い浮かびました。佐渡のハマナスは海を通して遠くの場所まで繋がっているんだなぁと、植物を通して何だか自分の世界まで広がるような気がします。
岩場にはイワユリが咲いていました。オレンジ色のユリと言えばオニユリが有名ですが、イワユリは上向きに花を咲かせるのが特徴です。佐渡の夏の青い日本海にはこのイワユリの色がよく映えます。
そのほかに目立った花はカワラナデシコでしょうか。まだ7月の下旬だったのですが、ハマナスの実と合わせて見ると何だか少し秋を感じますね。
やがて「願」という集落に着きました。目の前の海は穏やかですが、冬には北西風が吹き付けるのではないかと思います。後ろには崖が迫っていて、厳しい自然と共に生きる漁村という感じがしました。
「願」の集落から坂道を急な坂道を上ると、佐渡有数の景勝地・大野亀に着きます。このあたりはトビシマカンゾウの季節になると一面が黄色い花で埋め尽くされてとても見ごたえがあるようですが、シーズンは既に終わっていました。でも緑一色に白木の鳥居が立つ風景も、なかなか良いものです。これから背後の急斜面を登ります。
急斜面を蜂に脅えながら登り、大野亀の山頂に上がると、外海府海岸が一望できました。海岸線は見事な海食崖になっています。崖上の平坦地は切り開かれて水田になっていて、漁村集落が崖下にあるようです。台地上の土地が畑でなく水田なのはちょっと不思議な気がしますが、背後の山からの水が豊富なのかもしれません。佐渡には標高1000mを越える山脈があって、海だけでなく山も豊かです。
バス便を逃して移動できなかったので、ヒッチハイクをしました。色んな話をしながら観光をして、夫婦岩に着くと、夕方になりました。昭和の雰囲気が色濃い夫婦岩のドライブインには「ブリカツくん」という冴えないゆるキャラがPRされており得も言われない気分になりました。いや、このセンスも嫌いじゃないですけどね。それにしても夕方の空は綺麗です。
佐渡の食べ物、飲み物
佐渡島はとても豊かな島です。水田耕作はもちろんのこと、果樹栽培、畜産も盛んに行われていますし、多種多様な海産物が水揚げされます。
明治になって新潟県が設置されるまで佐渡は「佐渡国」といういわば独立した行政体系のもとにあったそうです。また、数十年前には日本のある知識人の間で佐渡独立論が提唱されたこともあるらしいですが、その是非はさて置いても、仮に独立してもやっていけるほど物産が豊富である、ということは言えるのかもしれません。
例えば魚ですが、佐渡島の中心地・佐和田のスーパーには地物のアジがたくさん並んでいました。新鮮そのもので、またこの大きさが8尾入って198円という値段には驚かされます。この島の人達はきっと決して魚に困ることは無いんだろうなぁと思います。
また、他にも新鮮そうなイカ、イナダ、マダイの刺身がたくさん並べられていました。それも「新潟産」ではなく、「佐渡産」「地物」のシールが貼られています。小さなことですが、「佐渡アイデンティティ」がしっかり存在しているんだなぁと思わされます。
海産物の加工品もたくさんあります。代表的なのはいかの塩辛で、「いかわた」がしっかり入った濃厚な味にご飯が止まりません。
美味しい魚や海産物が手に入ると、今度はお酒が飲みたくなります。佐渡は島内に5つの酒蔵があり、おいしいお酒には事欠きません。
私は「金鶴」という銘柄を出している加藤酒造店を訪れ、たくさん試飲させていただいた後に一本購入しました。定番のお酒だけでなく、色々な種類を出しているので試飲も楽しいです。佐渡は柿が特産品だからか、柿の酒があるのも面白いところです。
もし佐渡で経済的な旅を楽しむのであれば、こうしてスーパーでたくさん新鮮なお刺身を買って、地元の商店でイカの塩辛でも買って、そして酒蔵で日本酒を購入して、宿に帰ってゆっくり飲むのも良いかもしれません。そんな少しケチな旅行スタイルでも、佐渡の地魚、佐渡の地酒を購入するわけですから、しっかり地元にお金が落とせるのが嬉しいところです。
さて、米も魚も豊富な佐渡ですが、何と牛乳も生産しています。トキを大胆にあしらった佐渡牛乳のデザインはとても可愛いです。離島のご当地牛乳は佐渡以外にも色々あるようですが、伊豆大島の大島牛乳や八丈島の八丈牛乳など、いずれも海だけでなく山の豊かな自然がある島であるように思います。島の朝を島の牛乳で迎えるのはなかなか良いものです。
佐渡の集落と人
佐渡島はいわゆる「離島」ではありますが、国中平野と呼ばれる佐和田~両津にかけての中央部の平野は全国チェーン店やロードサイド店なども並び、さながら本土と変わらない風景が広がる一角もあります。一方で海沿いを中心にとても素朴な町並みが残っていて、そうした場所を歩くのはとても楽しいです。
金山で栄えた相川の集落。
小木港のたたずまい。
宿根木の黒瓦の町並み。
佐渡島に高校はありますが、大学はありません。また、仕事の受け皿も決して多くはないのではないかと想像しますし、進学や就職をきっかけに新潟や首都圏に出て行くことも多いようです。実際、私達をヒッチハイクで車に乗せてくれた女性2人組も佐渡出身で今は新潟で働いているそうですし、聞くところによると島の成人式は1月の成人の日ではなくて、多くの人が島に帰省しているお盆に行うのだそうです。
多くの人が島を出ていくのは寂しい話ですが、そうはいっても若者の流出はやはり止まりませんし、昭和中期には10万人を超えていた人口も、今では5万人強にすぎません。今や日本全国どこを旅してもそういう話ばかりですし、私自身も地元の関西を離れて首都圏で仕事をしているわけですから、島の人が島を出ていくのは尚更無理のないことです。
私個人にできることは少ないですし、偉そうに地方創成を語る資格もないのですが、できるだけ自分の稼いだお金は旅先の「地元の良いもの」にお金を落とすように心がけています。佐渡には良いものがたくさんありましたし、一人の旅行者として佐渡の産業や暮らしを少しでも支えることができたなら嬉しいなと思います。
社会人になって良かったな、と思える数少ないことの一つは、このように自分の消費行動を通じて自分が良いと思ったものを支持できることだと最近思います。
佐渡島については2日間くらいしか滞在できず、まだまだ知らないことがたくさんあります。機会を見つけてまた是非訪れたいと思いますし、それまで宮本常一の著作でも読みながら理解を深めておこうと思います。