休学中の記録

日台国際結婚の経験から夫婦別姓について考えました

最近、日本では選択的夫婦別姓に関する議論が活発化しています。私自身、この問題には高い関心を持っており、様々なメディアで表明される賛成派/反対派の意見に耳を傾けているところですが、聞けば聞くほど着地点が見出せなくなってくるように感じるのも悩ましいところです。

そこで今回は一度視点をリフレッシュして、自分の具体的な事例からこの問題を考えてみることにしようと思います。

国際結婚と夫婦別姓

個人的な話になりますが、私達夫婦は日本・台湾の国際結婚です。このため、姓の選択に関して日本人同士の婚姻の場合とは随分状況が違いました。というのも、日本では日本人同士の婚姻の場合に夫婦同姓が義務付けられますが、国際結婚の場合は逆に夫婦別姓が基本となっているからです。

国際結婚の夫婦は「希望すれば」同姓にすることも可能なのですが、私達は自分達の元の姓に愛着もあったので、別姓のままで婚姻届を出すことを選択しました。こうして、日本で多くの人が直面するであろう「どちらの姓に統一するか問題」に私達は直面することはありませんでした。

日台国際結婚における子供の姓について

さて、夫婦の姓については別姓で良いとしても、将来的に子供を授かった場合に子供の姓をどうするのか、という議論はまた別に出てきます。私達の場合、日本で生活する上では日本の姓を使うのが自然だと考えるため、日本の戸籍上では、子の姓を私の姓に合わせようと思っています。一方、戸籍制度は台湾にもあって、子は台湾でも戸籍登録をすることになりますが、子の台湾戸籍上の姓は妻の姓を利用することを検討しています。

もちろん、この場合日本と台湾では良くても、将来的に第三国で英語名を使う時などにどうするのかという問題は残ります。けれども、その選択は成年になった息子/娘に委ねれば良いのではないかと考えています。

日台の国際結婚夫婦の子供の場合、出生の時点では国籍選択を留保することが可能です。この場合、日本と台湾の重国籍の状態となりますが、成年になる際にはどちらか一方の国籍を選択することになります。そこで、国籍を選択する機会に合わせ、国際的に使う姓も自分で考えて選んでもらったらいいのではないかなと、今は思っています。

台湾法における夫婦と子の姓について

私達が夫婦別姓にし、子の姓は日台別々にしておいてあとは自分で選択してもらう、という考えに至ったのは、台湾の現行制度の影響も受けてのことでした。台湾では、民法の第1000条に結構した後の夫婦の姓について次のような記載があります。

夫妻各保有其本姓。但得書面約定以其本姓冠以配偶之姓,並向戶政機關登記。(夫婦は各自の姓を維持するが、配偶者である夫又は妻の姓を冠して、これを戸政機関に書面で登記する場合はこの限りでない)

この規定をわかりやすく言い換えると、

(1)夫婦は別姓が原則。
(2)ただし冠姓(例えば香港の行政長官のように、林さんと結婚した鄭さんが「林鄭」という姓を名乗る、というような形)も可能。

ということになります。台湾では妻の両親世代ではかなり(2)の冠姓も多いのですが、現在婚姻届を出すほとんどのカップルは(1)の夫婦別姓となっています。現在の多くの台湾人にとって、結婚に際して姓を変えないのが普通ですし、実際私は台湾でも婚姻届を出していますがその際には自分の姓が維持されています*1。このため、翻って日本の婚姻届でも夫婦別姓で私と妻の姓を変えないのが自然でした。

また、夫婦別姓の場合の子の姓に関してですが、台湾の民法第1059条の記載では、次のように定められています。

父母於子女出生登記前,應以書面約定子女從父姓或母姓。未約定或約定不成者,於戶政事務所抽籤決定之。(両親は子供の出生届を出す前に、書面において父方/母方のどちらの姓にするのかを決定することとする。合意に至らない場合は、戸政事務所において抽選で決めることとする)

つまり、

(1)子は父か母のどちらか一方の姓を名乗る
(2)両親の間で合意に達しない時は抽選で決定する

という規定になっています。日本ではよく夫婦別姓の課題として「子の姓の安定性が損なわれる」という問題が取り上げられますが、台湾ではこの問題を夫婦の話し合いに委ね、最終解決手段として「抽選」という方式をとっていることになります。

これに対しては、子供の姓が両親の話合いで決められると言っても、それはあくまで両親による一方的な決定であって、子供自身には選択権はないのかという反応もあるかもしれません。そのような懸念に対応してか、同じ民法第1059条内に「子女已成年者,得變更為父姓或母姓(子は成年になると父の姓または母の姓に変更できる)」旨の規定が盛り込まれています。

つまり、何らかの理由で子が父の姓から母の姓(その逆も然り)へ変えたい場合、自分の意思で変えるという選択肢が留保されていることになります。このような、台湾法における「子の姓は父母の話し合いで決める。一方、子にも選択権を残しておく」という考え方は私にとって合理的に感じました。

そこで、私達は台湾民法の背後にある知恵も拝借しつつ、国際結婚のメリットも生かす形で、

  • 日本・台湾の婚姻届では双方で夫婦の別姓を維持
  • 子供の姓は、日本の戸籍上は私の姓、台湾の戸籍上は妻の姓にする。
  • 第三国で国際的に使う名前は、最終的には子供に選択してもらう

という案を検討しています。

日本における選択的夫婦別姓の今後について

今回、私達は夫婦と子の姓を考えるにあたって、幸いなことに様々な選択肢を検討することができました。そしてその過程で家族の将来のことを考えるきっかけにもなりました。結論が最善かどうかは後になってみないとわからないものの、自分達で出した結論であれば、納得感を持って前に進むことができるような気がします。

そして、夫婦と子の姓の選択にあたって自分達で選択権を持ってみて思ったのは、何事においても選択する自由があるのは尊いという当たり前のことでした。私達はやろうと思えば日本で夫婦同姓を選択することもできましたし、子については日台で別々の姓を検討していますが、最終決定はまだ先の話になるので、子の日台の戸籍上の姓を私の姓に統一するという選択肢も可能性としてはまだ保持できています。

本来何事においても、国民が選択する自由というのは、公共の福祉に抵触しない限り、最大限与えられて然るべきだと思います。選択的夫婦別姓に関しては、本来国民の選択の自由はあればあるほど望ましい、という基本に立ち返って議論を始め、その上で実際に制度を変えるための社会的コストを踏まえて本当に実現可能なのか、という観点で最終的な可否を判断するのがあるべき議論の形と考えます。

もし私権の制限を所与の当然とみなすところから議論を始めてしまう人がいたとしたら、それは「自由」と「民主」を重んじる国家における議論のあり方としては間違っているように思えてなりません。

*1:実は以前の台湾では、国際結婚の場合、外国人の姓は「百家姓」と呼ばれる台湾で一般的な百種類の姓から選ぶことが義務付けられていたそうなのですが、2012年以降は外国人でも元来の姓を利用することが可能になったということです。